10 竜珠 その2
10 竜珠 その2
ルオーは眼を開いた。
壁の隙間からこぼれる朝日。
外から聞こえる小鳥の声。
もうかぎなれた硫黄の臭い。
・・・宿屋にいるのじゃない。
「あ、目が覚めた?何か食べれそう?」
傍についていたライラが聞く。
「・・・ここは?」
「谷のはずれ。古い湯治用の小屋らしいわ。
あのあと兵隊たちが宿を探しに来たんで、こっそり街を抜け出したのよ」
・・・あのあと。
「・・・セネカ!あいつ・・・!つっ・・・!」
「まだ起きちゃダメ、ちょっとやばかったんだから。
傷が治るまでおとなしくしてるの。
幸いここのお湯は怪我に効くみたいだし」
がたつく扉を開き、レイヴンが入ってくる。
「おう、気が付いたかちび。
まったく、夕べは肝を冷やしたぜ」
「ごめんね、私のせいだわ」
ライラが肩を落とす。
「何があったんですか」
変な生き物に喰いつかれた後、いきなり息が出来なくなって・・・。
「あんたの身体の中であたしとシルヴァーンの血が喧嘩しちゃったの。
あやうくあんたを殺すところだったわ。
だからあたしの竜珠を飲ませたの」
「竜珠・・・?」
「竜がね、誰かの子が欲しい時、交尾する相手に飲ませるものよ」
ぎょっとしたルオーに、ライラは赤くなってあわてて言った。
「ちがう、ちがうっ、そーいう意味じゃなく!
えーとね、竜に対して親和力をつけるっていうか、そういうものなの、本来は。
でも竜の力の結晶だから、怪我や病気の相手に使うとすごい特効薬になるのよ」
「死んでなきゃなんでも助かるって言うよな」と、レイヴン。
「だが百年に一度しか創れねえんだ。めったな相手には飲ませられねえ」
「そんな大事なものを・・・ライラ・・・」
ルオーは口ごもった。
「いいんだって。あたしの命の恩人だもの、あんたは。
百年にひとつだけっていうのは、やたらに他の生き物と子をつくるなって事なんだし。
雄の中には、そういう悪い遊びするものがけっこういるから」
「おい、なんでそこで俺を見るんだよっ!」
「あれは、何だったんですか?」
セネカが投げつけた洞鼠っていう生き物は・・・
ライラがブルッと身を震わせる。
「俺たちの天敵だよ」
「ちょっと、レイヴン!」
「いいんじゃないか?ちびになら、話しても。あいつは・・・」
「いや、いや!私のいないとこで言って!思い出すのもいやなんだからっ!」
立ち上がって小屋から飛び出して行ってしまった。
「だよなぁ」
あれの、後じゃ。
「ま、危うく恐ろしい死に方するとこだったんだから、無理はねぇが」
「恐ろしい死に方?」
「あいつはえらくちっこい生き物だがな。
竜にとってあれほど怖いものはない。
お前の身体の中に入ったろ。
ああやって、竜の体の中に入って、中から身体を喰うんだよ。
奥に入ったら取り出せない。
おまけに俺たち竜と同じで、相手がなくても一匹で子を産める。
竜の体内でどんどん増えて、俺たちは生きながら喰われていくんだ」
そんな恐ろしいものをライラに投げつけたと?




