9 竜珠 その1
9 竜珠 その1
しばらくして、きぃ、と部屋の戸が開き、廊下にしゃがみ込んでいたレイヴンは飛び起きた。
「おい!ちびは!」
ライラがうなずいて、一歩下がる。
入ったレイヴンの前には、寝台によこたわるルオー。
その顔は死人のように青ざめていた。
だが呼吸は楽になり、胸が穏やかに上下している。
見ている間に頬に血の気がさし、唇が色を取り戻す。
その柔らかな頬に淡い影を落とす長い睫毛が震え、うっとりと薄眼を開いたルオーが、まだ意識もないまま甘い吐息をもらす。
はだけられたシャツからのぞくなめらかな胸がゆっくりと動くと、しっとりとした肌に無残に刻まれた古い傷跡もかえって色を添え、男のレイヴンでさえ見惚れるような艶めかしさ。
思わず指でなぞりたくなる。
ん?
なんだ、この色っぽさは?
「ほんっとに綺麗な子ねぇ」
ライラがため息をつき、しみじみと言った。
唇が震え、再びもれる甘い吐息。
素晴らしい回復力。
思い当たってレイヴンは仰天した。
「おまえっ!ちびに竜珠飲ませたのかっ!」
ライラはうなだれた。
「もう、それっきゃ手はなかったもの」
「わかってんのか、おまえ。
おまえ、この百年の間、子をつくれないって事なんだぞ。
それとも、まさか、この、ちびとっ・・・」
いきなり飛んできた洗面器。
とっさに受け止めたレイヴンは、バランスを崩して尻餅をついた。
手にしたそれで次々飛んでくる水差しを、カップを、タオルをかわす。
「わかってるわよ、バカラスっ!
あんたなんかよりずっとわかってるわよっ!
あたしは絶対にシルヴァーンと交尾できなくなっちゃったんだから!}
「なんだって!」
ライラはしゃくりあげだ。
「血が・・・合わないのよ。
確率はすごく低いって聞いてたのに、よりによってあたしとシルヴァーンの血が不適合なのよ。
だからショックでルオーを殺しちゃうところだったの」
「不適合・・・」
「あたしとシルヴァーンは交尾できない。百パーセント流産する。
あたしは最強の竜の子を生めないの」
すすり泣きから号泣へ。
「何のためにっ!何のためにあたしここまでっ!
家出して、苦労して、シルヴァーンを探し回ったのっ!
シルヴァーンの代用品の年寄り竜なんかとは絶対交尾したくなかったからっ!」
手放しで泣き出してしまったライラに、レイヴンはかける言葉もなく呆然とするばかりだった。




