7 セネカ その3
7 セネカ その3
ただ一人乗り込んできたセネカに不安を覚えながらも、何とか彼を捕らえたいと、三人は目くばせをし合った。
その様子に気も付かぬように、セネカは不気味にほほ笑む。
「くく、二頭も竜を連れてきてくれるとは。ありがたいことだ」
「なに?」
「竜などこの世から消えてしまえばいいのだよ。
手始めにこれを差し上げよう」
懐から取り出した、小さな陶器の箱。
蓋に小さな穴がいくつも開いている。片手に乗せて、差し出す。
「この世でただひとつ、竜が恐れるもの。
このちっぽけな生き物。
飢えた洞鼠」
「キャァァァァァーーーーッッ!!」
ライラがすごい悲鳴をあげて飛び上がった。
セネカがその小箱をライラに向かって投げつける。
「ヒィーーーッ!」ライラの悲鳴。
ライラを庇ったルオーがそれを叩き落とした。
それは卓にあたって砕け、中から飛び出した小さな生き物がルオーに飛びつく。
それは、ルオーの右手に絡みつき、袖の中にもぐり込んだ。
何かが腕を這い上がる。上膊部に激痛が走る。
「うわっ!」
上着を引きむしるように脱ぎ捨てると、腕に出来た傷からくねる紐のようなものが体内に入っていく。
掴もうとした。何かの尾だ。血で滑った。
「クウ・・・ウッ!」
「ルオーっ!」
何かが体内に入った。凄まじい痛み。
セネカは高笑いしながらローブを翻し、戸口へ走った。
「レイヴン!ルオーがっ!」
ライラがルオーに駆け寄る。
だがレイヴンは硬直したまま壁にはりついて動けない。
ルオーは腕を押さえたが、凄まじい痛みは腕から肩へ動いていく。
ライラは自分の右手の爪を左の掌に走らせた。
さっと切れて、血が噴き出す。ルオーを引っつかむと、その手をルオーの口に当てる。
「これ飲んでっ!」
何も判らず青年はライラの血を飲み込んだ。
少女の焦る指がルオーの腕を探るが、もぐり込んだ異物は肩から胸へ。
「ごめん!」と一言、鋭い爪がルオーの胸を切り裂き、傷に指を入れる。激痛に青年がのけぞる。
「レイヴン!レイヴン!ルオーを抑えてて!」
必死で助けを求められ、壁に張り付いていた男はやっと動いて駆け寄った。
「つっ・・・つっ、掴んだのか!」裏返った声で叫ぶ。
「まだよっ!でも、取り出さなきゃルオーが死ぬっ!」
もがく青年をおさえて体内を探る。その顔に勝利の輝き。しかしすぐに困った表情。
「捕まえた!でも、どうしよう、肋骨と一緒に!だめ!すべる!ごめんねルオー!」
声と共に鈍い音がしてルオーが苦痛の叫びをあげて気を失う。
ライラは掴み出した小さなものにナイフを突き立てた。血まみれの長い尾がのたくり、キーという小さな叫びが上がる。
「いやっ!いやっ!いやいやいやっ!」
ナイフを突き刺したまま踏み潰した。潰れたことを確かめてナイフを抜く。
さらに踏みにじった。
「いやーーーっ!いやーーーっ!もういやっ!」
悲鳴のような声を上げながら上で跳ねる。赤いしみになったそれに雑巾をのせ、重い卓を逆さにしてばん!と上に乗せた。
踏んだ靴を脱ぎ捨てて窓から放り出し、激しく身震いする。
・・・やっと、落ち着いた。
ルオーを抱いたままぽかんと口を開けて見ているレイヴンをにらみ付ける。
「やくたたずうううっ!」涙を浮かべて怒った。
「女の子にあんなこと、あんなこと、あんなことさせてえぇぇっ!レイヴンのばかああっ!」
まだ半分硬直しているレイヴンは、逆さに置かれた卓を見て生唾を飲み込んだ。
「・・・すげえ・・・」
あわてて、言い直す。
「い、いや、すごいっ!ライラ、あんたはすごいっ!俺ぜったいにこんな事できねぇよっ!」




