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竜王と黄金のハート  作者: 葉月秋子


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      5 セネカ その1

5 セネカ その1



「くっくっく・・・」


 フードの男は低く笑った。

「シルヴァーンといい、このふたりといい、よほど竜に見込まれる体質のようだね、ルオー」

 しらじらしく言い放つ。


「シルヴァーンを・・・どうした!」

「くく・・・そなたの手の届かぬところに置いてあるよ。あれは私のものだ」


 シルヴァーンをあれ呼ばわりされ、飛びかかろうとするルオーをレイヴンが押さえた。

「てめぇ・・・フードを取れよ!」

 なんだか腰が引けている。

「近づくな、ルオー。こいつ、なんか変だ」

「なに・・・こいつ・・・臭い!」

 

 竜たちが気付いた、強い香でも隠しきれぬ、異臭。

 しばしためらった後、男はフードに手をかけた。

「・・・これは・・・竜の呪いさ・・・」


 現れた姿を見て、ルオーは言葉を失って固まった。


[・・・セネカ?・・・]


 覚えている姿は、若い、痩せた、神官見習いだった。


 だが、・・・老いか?・・・病か?・・・。


 抜け落ちた頭髪。黄ばんだ皴深い皮膚。顔に手に浮かぶ大きな紫斑。

 そして、なにより・・・その異臭・・・。


 ・・・竜の、呪い?・・・。



 驚きにかたまり、無言で見つめる三人。



 レイヴンが口を開いた。


「竜の・・・呪いだと?

 そんなもんじゃねぇ。

 屍肉の、腐敗臭だ。

 むっちゃくちゃ気色悪いが、これっきゃねえだろうな。

 てめぇ、竜を喰ったろ」


 ライラが小さな叫び声を上げた。


「シルヴァーンの腕をたたき切ったあの野郎と同じだ。もっと強いが、同じ匂いだ。

 ただの人間にあんなことが出来るわけがねぇ。

 不老不死でも狙ったんだろうが、竜珠や血と違って竜の肉は人間と同化しなかった。

 その身体の中で、取り込まれた竜の部分が腐っているんだ」




 セネカは唇をゆがめて笑った。


「さすがは烏、死臭には敏感なことだ。

 シルヴァーンと戦った男は私の兄。

 そう、兄と、私と、妹と。三人が竜の肉を食べた。

 だが別に不老不死が欲しかったからではない。

 あれが生き返るのを恐れたから。

 生に対して恐ろしいほどの執着を持っていたから。わが父、ドリューは」


 何を言われたかわからず、レイヴンはぽかんと立ったまま。

 数秒後、げっと叫んで飛び退く。


「父親を?喰った?」


「ドリューですって?」

 系図の生き字引のライラが言う。

「霧立ち山脈に住む蒼のネミルドーの末息子だわ。

 前の活動期の終わり頃、行方知れずになった若い竜」


 頭の中のファイルを探る。


「たいして良い血統じゃない。 

 ありきたりの青灰色の体色、竜印の色もさえない黄色。

 下の上か、中の下あたりの竜」

 よくまあ、ずけずけと。


「・・・並か、それ以下の竜だったのか、あの怪物は」セネカが言う。


「その竜が悪い友達に唆され、人間になって女と寝てみようなどという気まぐれをおこした。

 気まぐれに人間になっている間に、事故で片足を失った。

 もう二度と、竜に戻れなくなった」


 二人の竜は息をのんだ。


 

 

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