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竜王と黄金のハート  作者: 葉月秋子


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      3 北の地 その3

3 北の地 その3



 スーリの谷に下り、街に近づくにつれて、変な臭いが流れて来る。

「なんだこの匂い」

 卵の、腐ったような。


「硫黄というものだそうだ」

 芝麦を運ぶ商人が言った。

「温泉の近くで取れる、黄色い石、というか、粉というか。

 ここ以外ではあまり見ないな。その匂いじゃよ」

「町中この匂いなのか?」

「染みついちゃいそう。やだなぁ」

「温泉には付きものじゃそうだよ。そのうち慣れて感じなくなるさ」

「温泉って?」

「ほれ。そこら中で湯気が上がっとるじゃろう?

 スーリの谷は、熱い湯の泉がたくさんある、珍しい土地なんじゃ」


 遠目で見た白い煙は、熱い湯の湯気だというのだ。

 そのせいで谷は温かく、寒い季節でも快適に過ごせるのだと。

 街に入ると、暖か味のある茶色の石造りの建物に、行きかう人々の衣類も茶、とか紺の渋い色合い。

 まばらに数件ある屋台では、籠に盛られて湯気を立てている、見慣れぬ根菜や卵。

 小銭を出すと串にぶっすり刺して、ぱらりと塩を振って渡してくれる。


「なんかのんびりした、良い処だわね」

 はふはふと卵と芋をほおばりながら、ライラが言った。


 ルオーはあたりに目を配りながら、つぶやく。

「若者が、いない」


 のんびり見えたのも当然か。街を行く人々はよそ者か年寄りばかり。

 若者も、子供の姿も、ない。




 谷の奥、建物が大きく上等になっている方から、しゃん、しゃんと鈴の音が聞こえてきた。

 街の人々の様子が変わる。

 ばたばたと屋台が片づけられ、無造作に道端に置いてあった籠や樽の類が消える。

 人々はきれいに広くなった道路の両脇に並んだ。

 

 最初にやって来たのは、先ぶれらしい騎馬の男たち。

 鈴の音は、見事な鞍の前輪(まえわ)につけられたシストラムだった。

 続いて整列した十人ほどの兵士たち。皆整った顔立ちに背の高さまできっちりそろえ、毛皮で縁取った革鎧に槍を担いで続く。

 そして豪華な衣装をつけた男女に取り巻かれた、数台の輿。


 そこまで確認したルオーは、まわりの人々が深く頭を下げるのを見て、ぽかんと見ている竜たちに飛びつき、あわてて頭を下げさせた。

 不敬罪でつかまったりしたら事だ。

 取り調べでもされようものなら、とんでもないものが荷物の中に入っている。


 その背の荷物に意識を向けた時。

 とくん、とそれが脈打ったような気がした。

「おい、ライラ!」

 レイヴンがささやく。

「しっかり竜気を閉じてろ!なんか、変だ!」


 ルオーはそっと顔を上げる。

 輿は正面を過ぎ、輿の後ろに続くのは、ローブを深くかぶった、僧侶のような姿。

 華美な行列の最後尾に、一人だけ従うその姿が、こちらを向く。


 顔も見えず、男女の区別もつかない。

 だが、人ごみの中の三人を、はっきりと認めたような気がする。

 そのまま、数秒が過ぎる。


 ゆっくりと顔を戻すと、ローブの人物は行列と共に立ち去って行った。


「どうしたの?レイヴン」

「んー・・・感じなかったのか、そっちは。

 なんか、じとーっとやな気配というか、悪意というか、臭いというか」

「臭いなんて、みんなこの硫黄の臭いになっちゃって、わからないわ」


 ルオーは額の汗をぬぐった。

 レイヴンと同じように、感じた、何か。

 剣闘士時代のカンのようなものがささやく。

 何か、異質なものがある、と。


 

 

 


 


 


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