14 竜王神殿 その2
14 竜王神殿 その2
「戻ろうよ、ねぇ、戻ろうよ」
アルムは先を行くアダンの背中に向けて言った。
「僕たちが命ぜられたのは、城の奥庭の捜索だろう?
ここはもう奥庭じゃない、さっきの生け垣を境に、ここはもう上神殿の神域の中だよ」
城の高みに居座ろうとした十頭の蜥蜴鷹を王自らが近衛の兵たちを率いて打ち取る騒ぎであった。
午後中かかって七頭を仕留めたところで残った三頭が飛び去り、大きな脅威は去ったものの、城下では数か所で火災が発生。魔獣と火に追われた飛狸の群れが城壁を越えて城に侵入してしまった。
一頭ずつならさして強敵ではないが、毒を持つ牙と爪は女子供には危険だ。
武器を持てる者は総出で、飛狸狩りに駆り出されていた。
「臆病だな。こんな機会でもなきゃ、神域の探検なんてできないぜ」
二つ年上の若い衛士、アダンがフン、と鼻を鳴らした。
「本殿の、六年前の惨劇の現場、見て見たいと思わないのか?
祭壇前で何十人もの神官が殺されて、床中血の海になったっていうじゃないか」
「あそこは夜な夜な人魂が飛ぶっていう噂だよ。
殺された人たちの怨念が渦巻いて・・・」
「ただの噂だって。そんなんじゃ、お前リーナに馬鹿にされるぜ」
「・・・!」
「俺の妹はお転婆だからな。勇気のある奴が好きなんだ。
本殿の惨劇の跡を見てきたって、自慢できるぜ」
意地の悪いこの先輩に逆らったら、告白しようと思っているリーナに、どんな悪口を吹き込まれるかわからない。
アルムは槍をぎゅっと握りしめ、夕闇の迫り始めた空を心細げに見上げると、ため息をついて藪をかき分け、アダンの後を追った。
「バリスタは使えません。動きが早すぎ、狙いを定められませんでした」
「長弓では軽傷を負わせ、凶暴にするばかりです」
「空にいる間は打つ手がない。だが、翼を射抜けば地に落ちる」
「長弓で翼を傷つけ、落ちたものを囲んで仕留めたものが三匹。
近づいたところを投げ縄で捕らえ、地上に引きずり落したのが二匹。
部屋に飛び込み、翼を使えぬ場所で仕留めたのが一匹。
一匹は小窓に突っ込んで抜けなくなり、簡単に仕留められた。
長弓の名手が一匹の目を射抜いたがこれはそのまま逃げられている。
だが兵の被害は大きい。翼に跳ね飛ばされて近づけぬのだ」
かつて『火の一位』将軍であったロードリアスの僭王、ザンダルーンは石のように固くこわばった顔で将軍たちの報告を聞いている。
老人が書類を抱えて入り、王に頭を下げる。
「何かわかったか?」
「神殿に記録がございました。
魔獣の名は蜥蜴鷹。飛行性。小型の魔獣」
「小型だと?」「あれでか!」
「高所を好み、集団で営巣する。皮革は固く、巨大なくちばしは脅威である」
「弱点は?」
「特にはございません。強いて言えば他の魔獣と同じ、火ではないかと。そしてこの魔獣の特徴は」
老人は王を見上げた。
「斥候を飛ばして営巣地を探すことだと。良い場所を見つけると、仲間を呼び集めるとあります」
かつて見事に整えられていた、瀟洒な四阿をめぐる林を模した庭園は、うっそうと茂る雑草に道をふさがれ、見る影もなく荒れ果てていた。
アダンは隠しから印をつけた紙を取り出し、薄れていく陽の光にかざして照合する。
「庭の向こうが水の館に通じる来客用の別邸。あの建物を回り込んで、登っていくと上神殿の本殿だ」
「そんな地図、作ってあったのか」
「ふん、探検するなら当然だ」
城の裏手に位置する上神殿は林の中を九十九折に参道を登る形で小高くなっており、途中いくつもの小さな社や離れが林に溶け込むようにひっそりと佇んでいる。
「あの建物の中を調べて、次はこっちの離れを見る」
「おい」
アルムはアダンの腕をつかんだ。
「本殿の探検をするだけじゃないな、いったい何を企んでる」
アダンはにやりと笑う。
「法には触れない、ちょっとした小銭稼ぎさ」
「そんなものに僕を巻き込むな!」
声を荒げた時、がさり、と近くで音がした。
「しーっ!」
気付かなかった、石造りの小さな祠。
その陰から突き出された、二本の脚。
「誰だ!」
槍を構えて回り込んだとたん。
死体を貪っていた二匹の飛狸が真っ赤に血に染まった鼻面を上げ、大きく口を開いて飛びかかってきた。
「うわーっ!」
「ぎゃーっ!」




