13 竜王神殿 その1
13 竜王神殿 その1
なんだか城下の街が騒がしい。
非常用の鐘の音が聞こえる。
刺繍の枠にかがみこんで針を使っていたリーナは露台のほうへ顔を向けた。
「そこ!手を止めてはだめですよ!」
監督をしているマルナクル夫人がぴしりと言った。
城の三階にある大きく窓を取った涼しい部屋で、大きな緞子の布を囲んで女官見習いの少女たちが座り、寝台の掛布にアイリスの花を刺繍中だ。
新王妃となったアトリ候の息女マリアーナが、前王妃ロザモンドの好んだ薔薇の意匠を嫌ったため、寝室周りの装飾を皆アイリスの花に変えることになり、皆大忙しだった。
[こんなに毎日暑い日が続いているのに、重苦しい緞子を使うなんて。
私だったら麻とかレースとかの薄手のカーテンにして、窓をいっぱいに開けて風を入れて、布がそよぐのを楽しむわ]
と、もう一度露台の方を見たリーナの眼に。
露台いっぱいに広がる、大きな翼。
尖ったくちばしをもつ、馬よりずっと大きな頭がぬっ、と突きだされた。
「キャアーーッ!」
悲鳴をあげる少女たちが奥の扉に殺到する。
突き出されたくちばしが一人の少女を襲い、ドレスの肩を引き裂く。
刺繍の青い花の上にバッと血痕が散った。
「キャーッ!」
「わあーっ!」
だが室内に踏み込もうとした魔獣が踏ん張ると、留まっていた石の手すりが崩れ、次の狙いが外れる。
リーナは緞子の端を掴んで、放り投げた。
魔物の下げた頭に厚い布地がばさりと覆いかぶさる。
布を取ろうと暴れる獣の大きな翼を避けて、リーナは怪我をした少女を部屋から引きずり出した。
バタン!と扉が閉められ、へなへなと座り込んだリーナは閉めた扉に寄りかかった。
「何なのよあれーーーーっ!」
数時間後、三人は城壁の外側を四分の一周ほど回り込んだ所に来ていた。
背後の山が近づき、高低差が激しくなるため家を建てにくく、外壁と内壁が一番接近しているあたりだ。
見上げると二重の壁の向こうに城の斜め後ろ側と竜王神殿の森の緑がわずかに見える。
飛狸と蜥蜴鷹が乱入した正門側の騒ぎも、だいぶ遠くなっている。




