11 ロードリアス その4
11 ロードリアス その4
「飛狸だあーっ!」
南の空の大群を見た城壁の外の人々は、二つに割れた。
スラムに駆け戻る者、そして都に逃げ込もうと、正門に駆け寄る者。
正門前で並んでいた行列が崩れ、荷馬や羊が暴走する。
荷車や馬車から人が飛び降りて、門へと走る。
だが、彼らを押し戻し、衛兵たちが門を閉じようとする。
「入れてくれ!入れてくれ!」
「助けてくれ!」
素早い数人が隙間から転げ込むが、大きな木の門は無情にもぴしゃりと閉じられてしまう。
ごとごとと、中で閂のかかる音がする。
「荷車で円陣をつくれ!散らばるな!かたまれ!」
脇を走り抜けながら怒鳴ったルオーは、そのままスラムの方へ。
「女子供は壁際へ!バリケードを造って火を焚け!」
空の黒い点は見る間に近づいてくる。
ぎゃぎゃ、ぎゃぎゃという叫びと羽音が空に満ちる。
もさもさした黒い毛に覆われた胴体と、逆に毛がまばらな大きな頭。
大型犬ほどもあるそいつがテントを押しつぶして着陸し、幅広い口を開けてギャー!と啼いた。
「この野郎!」
棒を振り上げて、男が頭を叩く。
もう一人が槍を口に突きこむ。
だが致命傷にはならず、何人かが駆けつけて、やっととどめを刺す。
竜には小物だろうが、ろくに武器を持たぬ人間には脅威だ。
「噛まれるな!毒があるぞ!」
「引っかかれるなよ!」
剣を持つのは冒険者姿のルオーたち三人だけ。
後は即席の槍か、ナイフか、棒だ。
壁を背に女子供がかたまり、周りを男たちが囲む。
頭上から爪を突き出して舞い降りる飛狸。
着地して走るもの。城壁にぶち当たって落ちて来るもの。
壁を越えていく数も増え、都の中から非常時を知らせる鐘の音と悲鳴が聞こえる。
「レイヴン!だめ?」
「だめ!」
こんなとこで竜に変化しちゃ、だめ!
「これじゃきりがないわよ!」
もどかしくていらいらしたライラは、バリケードとして横倒しにした荷車の上に、ぱっと飛び乗った。
髪を束ねていた紐を抜き取る。
ばさりと広がる、深紅の髪。
あふれだす、竜のオーラ。
「こーの雑魚どもっ!こっちに来るんじゃなーいっ!」
上空の飛狸たちが。
ぱあーっと、ライラから距離を取って離れた。
きれいな円形の空白ができる。
しかし、彼らは逃げず、ライラから距離を取ったまま、都に飛び込んでいく。
「あれ?」
「こいつら、追われてないか?」
え?何に?と目を上げると、飛んでくる群れの向こうの空に、もっと大きな羽ばたく翼が十あまり。
「あいつらに追われて逃げてるんだ」
「蜥蜴鷹だわ!」
ライラの声を聞きつけた傍の男たちが聞き返した。
「えっ!蜥蜴鷹?」
「ひゅーげら?」
「ひゅー?」
「りゅー?」
「竜っ?」
「だーっ!
あんなもんが竜なもんかっ!トカゲだトカゲっ!」
レイヴンが怒って叫んだ。
「来るわよっ!」
間近に迫った巨大な姿に、女たちから悲鳴が上がる。
ばさーっ!と翼が砂埃を上げ、十頭の蜥蜴鷹は皆の頭上を飛び越えて、獲物を追って都の中に入って行った。
気が付くと、城壁の外ははぐれた飛狸たちがうろうろ飛び回っているだけ。
代わりに城壁の中の悲鳴が大きくなった。
「おい、行くぞ!今のうちだ!」
剣を収めた三人は、人目につかぬ場所を探して、城壁の外側を回り込んで行った。




