9 ロードリアス その2
9 ロードリアス その2
ゲイラスと名乗った男は、しっかり教育を受けた元神官だけあって、当時の事を的確に語ってくれた。
あの日、国王の葬儀の準備に、上級の神官職は皆、上神殿に集まり、ゲイラスは下神殿で祭壇の喪装をしていたという。
「そこへ、ロザモンド王妃が竜王様を弑したという叫び。
あわてて上神殿に駆けつけると、扉は閉ざされ、中から大勢の悲鳴が聞こえていました。
『風の館』に行ってみると、そこにも抜身の剣を下げた兵士の姿が。
恐ろしくなった私は、下神殿の用具室に戻り、そこに隠れました」
続けてラクロア兵の略奪が始まり、城から火の手が上がった。
ゲイラスは数日間、同僚と共に下神殿の奥に閉じこもり、難をまぬかれたのだった。
「数日後、状況は変わり、ラクロア軍はロザモンド王妃と共に撤退、『火の一位』将軍によって、都は平静を取り戻しました。しかし、被害は甚大でした。
上神殿にいらした上級神官の方々、『風の一位』様、『水の一位』様をはじめ、ほとんどの上級職の方々が亡くなっていたのです。
何より、人型を取られていらした竜王様と、『黄金のハート』ルオー王子が亡くなってしまわれました・・・。
大神官ギリアス様と『水の二位』様が生き延びておられ、お二人は、竜王様の御遺体を神殿に安置し、壮大な追悼の式を上げよと命じられました。
ところが」
ゲイラスは息を継いだ。
「竜王様の御遺体が、消えていたのです」
深くかぶったフードの中で、ルオーは驚きの声を必死で嚙み殺した。
「ギリアス様は本当に驚いていたようで、狂ったように捜索を始めました。
しかし成果は上がらず、皆が不審に思い始めた頃、リドラムのローレル候が言い出したのです。
大神官ギリアスこそ、竜王様殺害の犯人だと。
思うところがあったのでしょう、生き残った『水』の神官を中心にギリアス様を糾弾する動きが高まり、襲撃事件が何度も起こりました。暗殺を怖れてギリアス様は身を隠し、魔獣に滅ぼされて人の世は終わる、すべての元凶はギリアス大神官と声高に叫ぶ一派に異端宣言を出し、都から追放したのです」
ゲイラスは深くため息をつく。
「・・・私も、疑わしきはすべて黒、というやり方に抗議したために、こうして追放処分を受けました」
『火の一位』将軍はギリアスを見限り、アトリ候の息女と結婚。
貴族たちの権力闘争に明け暮れ、神殿は寂れるばかりという。
「活動期が始まるというのに、竜王様は亡くなり、竜王神殿はばらばらに崩壊しました。
それでも人々は二年の間、待っていたのです。
本当に竜王様は斃れられたのか、御遺体もなく、何かの間違いではなかったのかと。
しかし、二年後、竜王祭は行われず、皆は絶望し、魔獣への恐怖におびえております」
「おびえるばかりで、何もしていないのかよ」
レイヴンが呆れるように言った。
「以前の人間はもっと骨があったぞ・・・ああ・・・という話だぞ。
都の周りに、餌となる人間をばらまくなんて、喰ってくれと言ってるようなもんじゃないか」
スラムとなった防壁の外を見る。
「『火の一位』様は、口減らしの貧民を見捨て、籠城するおつもりなのでしょう」
「それじゃ、だめだな。
百年前はあの二重の防壁の前には、深い堀があった。
いざとなったら、瀝青を流し、火をつけられるように。
それが埋められて、家が建っちまってる。
シル・・・竜王が他の竜と戦っている間、人間が火と壁で魔獣の大群を寄せ付けない。
そうやって活動期の百年を乗り越えてきたんだぞ。
それでも、飛行する奴らが入ってくるから、防ぐのは大変だったんだから」
見てきたような(実際見てきたわけだが)レイヴンの言葉に、ゲイラスは真っ青になった。
「それでは・・・やはり異端派は正しいのか・・・。
竜王様の亡くなった今、ロードリアスは・・・滅びるしかない・・・」
呆然として動く気力もない元神官が気の毒になって、幾ばくかの食料を傍に置くと、三人は立ち上がり、都に近づいて行った。




