8 ロードリアス その1
8 ロードリアス その1
「人間に変化してるのを忘れるな。この貧弱な身体じゃ魔獣の肉は固くて食えないんだから」
不満たらたらのライラのおかげでレイヴンも食欲を刺激され、夕食に分厚いステーキ(蔦豆ぬき)を何枚もおごる羽目になって少し懐の寂しくなった一行は、二日後、ロードリアスの都を望む平原にいた。
ルオーは感動に身を震わせる。
外側からこうして都の全景を見るのは、初めてだった。
街道は平原を貫いて、二重の防壁に囲まれたなだらかな丘に向かっている。
外側の木の防壁に囲まれて木造の、内側の石の防壁に囲まれて石造りの家並みが立ち並び、丘の上の城へと続いている。
城の奥の小高い場所に、緑に囲まれた竜王神殿の上社の白亜の屋根が見える。
その背後は深い森になり、竜王が眠っていた岩窟のある、険しい岩山に続くのだ。
四年前のラクロア軍の焼き討ちでだいぶ被害が出たはずだが、遠目で見た限りでは、立派なたたずまいに見える。
だが、外側の防壁に近づいていくと、門のあたりで騒ぎが起こっていた。
収穫した芝麦の袋を山と積んだ荷車が入っていく横で、みすぼらしい身なりの一団が追い出されている。
兵士たちが、ぼろぼろの服をまとった数人を捉えて、縄をかけて引きずっていく。
門を入ろうと順番を待って並ぶ人々は、見て見ぬふりだ。
見ているうちにもうひとかたまり、奥から追い立てられてくる。
子供を抱いた女性が必死で訴えている。父親らしい男が、腕を振り上げて怒鳴る。
その胸を、兵士が槍の石突きで突き、荒々しく門から押し出した。
改めて気付くと、防壁から少し離れた処には、掘っ立て小屋がいくつも立ち並び、ごみの山が出来、裸同然の子供たちがぼんやり佇んでいる。
そしてごみの山の向こうに、高い竿に袋がいくつもぶら下がっているように見えるのは・・・。
「手に職を持たぬ者たちは追放。反逆者と異端者は首吊りじゃ」
立ちすくんでいる三人を追い越して、荷を乗せた痩せ馬を引いて門に向かう男が言った。
「活動期が始まって、安全な都に避難しようとする流民共が押し寄せとるんじゃ。
商売用の木札か、住民の紹介状でも持っていないと、都の門をくぐるのは難しいぞ」
二人の竜は顔を見合わせ、呑気に言った。
「へー。そんなことしてるのか」
「えー、通っちゃいけないの?」
・・・ちょっと待て。
「レイヴン、どうやって入る気だったんですか?」
ルオーが聞く。
「ん、普通に通る気だったけど、だめなら塀を飛び越えるとか」
・・・・・・・・・。
・・・竜に常識を期待しちゃいけなかった・・・。
ルオーは額を押さえた。
二人の竜は証明書も持たぬ冒険者だし、ルオーと来た日にはここロードリアスでは死んだはずの皇太子、隣国ラクロアでは主殺しの逃亡奴隷剣闘士である。
竜王と暮らしていた頃のルオーの顔を見知っている者も少ないだろうが・・・。
「・・・ちょっと向こうで、お話をしておきましょうか」
口裏を合わせておかないと、とんでもない事になりそうだ。
「初めて都に入る者は門で厳しい詮議を受け、札を渡されるそうです。
街中では警邏隊が巡視し、札を持たぬ者は即逮捕、連行されるらしい」
ふんふん、と竜たちはうなずく。
「へー。面倒なことしてるのねぇ」
「これから僕の事はルオーでなくルーと呼んで。
本当は髪を染めたいんだけれど、マントで顔を見せないように動きます。
それから・・・」
街道から少し外れた木立の陰で昼食のパンをかじりながら話していると、竜の二人がぱっと身構え、木立の奥をにらんだ。
「お、お願いです、パンを一切れ・・・」
木立の陰からあらわれた男が情けない声を出す。
無精ひげを生やした、痩せた、若い男。
破れ、汚れはてたその服は・・・。
「あなたは・・・竜王神官?」
ルオーが尋ねると、男はぎくりとして身を引いた。
「い、異端者じゃありません、私は・・・」
「まあ、まて。落ち着いてくれ。
食事を分けてやるから、ちょっと話をしてくれないか。
数年もここを離れていたんで、さっぱり様子がわからないんだ」
がつがつとパンを飲み込み、喉をつまらせ、あわてて水で流し込んだ男は、ふう、と息をついた。
「ありがとうございます。
私はもと『風』の平神官、ゲイラスと申します。
『風』とは、竜王神殿の管理、運営、式典を取り扱う部門の事です」
男はぼろぼろの神官服に目をやる。
「どこからお話ししましょう。四年前のラクロア軍の侵略はご存知ですか。
国王の死と同時に、ラクロアから嫁いできた王妃ロザモンドが手引きして城に軍を引き入れ、あろうことか竜王様を弑し奉ったのです」
「あの日・・・」




