5 旅立ち その2
5 旅立ち その2
深夜、少年の悲鳴のような叫びが、心に響く。
「はっ!」
ルオーがいきなり、飛び起きた。
隣の寝台で寝ていたレイヴンがつられて飛び起き、奥の壁際で寝ていたライラまで跳ね起きた。
「・・・ああ、すみません。夢を見て・・・」
悪夢だよなぁ、と、若者の心が恐怖で固まっているのを感じた二人の竜は、うなずき合う。
ロードリアスまであと数日という、安宿の大部屋だ。
木枠に板を渡した簡易寝台が並ぶ寝るだけの部屋だが、相客がいないのを幸い、ライラが軽い電撃を放ったので、蚤虱の類は全滅している。
・・・ロードリアスに近づくにつれ、ルオーの神経がささくれ立っていく。
「何日もろくに寝てないだろ。ワインでも飲むか?
いっそ薬草売りから、快眠効果のナジュの種でも買って入れるか」
「いいえ!薬は嫌です!
僕は大丈夫・・・大丈夫ですから・・・」
「大丈夫じゃねぇ。明日は狩りをして路銀を稼ぐ予定だろ。
体調が悪い奴と組むのはごめんだぜ。怪我でもしたらどうするんだ」
無意識の時に竜に対して心を閉ざせない青年は、つい本心を二人に悟られてしまうのだ。
ちょっときつく叱責され、ルオーはため息をついて、顔を覆った。
「夢を見てしまうんです。あの日の事を、何度も、何度も」
震える声で、続ける。
「夢では、続きがある。
倒れたシルヴァーンの身体が引き裂かれる。バラバラに切り刻まれる。
もう生き返れない。見つからない。どうしても、見つけられない・・・」
子供のようにすすり泣く。
やば・・・レイヴンは口をおさえた。
『切り刻まれたらおしまいだ』
そう言って小さなルオーを脅したのは・・・俺だっけ・・・。
あー・・・うー・・・えーと・・・。
おたおたするレイヴンは、ぱっと閃いた。
「そうだ、チビ。シルヴァーンの腕は!
あいつの腕は、どうした?」
「神殿の・・・裏の林に隠しました」
「それだ!
な、ギリアスを探す前に、そいつを取り戻そう。
あれが無事なら、シルヴァーンも無事だから!」
「え!」
「本体が仮死状態なら、切り離された部分も同じ状態だ。
シルヴァーンがどこに連れて行かれたか、埋められたかしても、離れた部分は本体に戻ろうとする。
シルヴァーンの居場所の手がかりになるぞ!」
青年の眼が輝き、青白い頬にぱっと赤みがさした。
眠気が覚めた三人は、相客がいないのをいいことに窓辺により、気持ちのいい夜風を楽しみながら話し合う。
「じゃ、変化した腕が、そのまま竜の腕に変わるんじゃないんですね」
「ああ。変身した時、どこがどこになるって判ってるようなものじゃないんだ。
俺も人間になったとき、服を着て武器まで持っているんで驚いたよ。
服とか、武器とかは手放したって平気だし。
人間が爪や髪を切っても平気なようなもんだろうな。
だが、指を一本切り落としたりすると・・・ちょっとやばいことになると思う」
「神経が通ってるかどうかの違いかしらね。
あたしもこの服脱いで人間のドレス着たって、平気だと思うな。
服もそのままの形で残るはずよ。
でも、この髪切れって言われたら困るわね。束ねてるだけで片目つぶって物を見てる感じ」
「あ、判る。その髪、気の塊みたいだからな」
服を脱いだライラを想像したレイヴンはちょっとにやついて言った。
「人間より小さな者に変身したことはねえが、よくこんなに大きさが変わるもんだと思うよ」
指一本でやばいことに・・・ルオーは黙り込んだ。
では、腕一本なら・・・。
もしもシルヴァーンを取り戻せなかったら・・・。
「そっかー!ねえ、狩りして路銀を稼がなくっていいのよね!
あんたのその剣とか、上着とか、売り飛ばしちゃってから竜に戻って、それからまた変化すればいいんだ!きっとまた剣をもってるわよ!身体から離したものは、元に戻らないんだから!」
「何で俺のだ!あんたが売れよっ!」
「うーん、雄のくせにけちねっ!」
素っ頓狂なライラの声に、いっぺんで場の雰囲気が崩れたのだった。




