4 旅立ち その1
4 旅立ち その1
ロードリアス南部の城塞都市アストラ。
東に行くとローレル侯爵領リドラム。西は大河を挟んで人跡未踏の大森林地帯が続く。
北の首都ロードリアスへは、なだらかな丘陵地帯が続き、難所は少なく、設備の整った宿場町が随所に点在する広い街道が通っていたが、ラクロアの侵略とその後の混乱で治安が乱れ、町々は私兵を雇って自衛し、街道はよほど大きな隊商でも組まないと無事に通れない物騒な処となっている。
「ロードリアスは、今どうなっているんでしょう」
その物騒な道を三人で身軽に旅しながら、ルオーはレイヴンに聞いた。
十二の齢に離れたきり、もう八年もたっている。
「俺が出てきた時は、城を押さえた『火の一位』将軍ザンダルーンが威張っていたな。
シルヴァーンを倒したのは逃げ出したロザムンド皇太后とラクロアだってことになってるから、ラクロア軍を追い出した英雄だと称して王を名乗り、お前の異母妹な、アトリ候の娘と結婚した。
あ、どんな子か見に行ったけど、リンダのほうが全然美人だったぞ。
だけど貴族たちが反対したり、僭王を倒せと兵士たちが反乱したり、暴動を鎮圧したりで、けっこうめちやくちゃみたいだ。
竜王神殿は、神官がごっそり減っちまって寂れはて、儀式も滞っている。
ギリアスは神殿に籠ったきりとかで、もう数年も姿を見せていないそうだ。
大神官に戻ったんだから、もっと派手に動いてても良さそうなもんだが」
「それで、シルヴァーンは・・・」
「セネカに倒されて、ギリアスの手に落ちたんだろうが、どこへ連れて行かれたのか、それきり噂もない」
死んだと思われて、埋葬されてしまったんだろうか。
仮死状態なら、そろそろ目覚めるんじゃないのだろうか。
それとも・・・。
最悪の場合を想像したくなくて、ルオーは唇を噛み、うなだれる。
「じゃ、そのギリアスとかいうのをとっ捕まえて、シルヴァーンの居場所を吐かせればいいのね」
ライラが単純明快に締めくくった。
「ロードリアスの竜王は倒れ、もういない。
活動期が始まったのに、魔獣から守ってくれる者はいない。
みんなそう言って不安がってるけど、何が起こるのか、はっきりわかっちゃいないんだろうな。
ほら。
あれが先鋒だ」
ここ数年、高温多湿が続いているので、丘には丈高い草が豊かに茂り、手入れする者もなくなった街道の周りまで緑が押し寄せている。
遠くに見える、平角大牛の群れ。
ルオーが初めて見る、魔獣の群れだ。
家畜として見慣れている牛馬の三倍はあろうか。
両手を広げたような形の重量ある角を支える、逞しい首と肩。
暴走させない限りおとなしい、草食の魔獣だが、何十頭もの群れが、犂のような角で地面を掘り返し、灌木を引き倒して進むのだ。
進路に村や田畑などあったら、全滅である。
「うーん、やっとギャラクが戻って来たわね。まだ群れは小さいけど」
「旨いんだよ、あれ。小振りだけど、脂が乗ってて」
連れの二人は食欲が先行しているらしい。
「活動期が始まって十年くらいは、気温が上がって、草木が茂るの。
そしてまず草食のギャラクたちが目覚めて、増えて、南から移動してくる。
何千、何万頭の群れになって。
それは見事な眺めよ」
「ギャラク、ゲレハン、タルハン、ローア。
皆、草食の大きな奴らだ。
奴らが十分に増えて、太ってきた頃を見計らって、肉食の奴らがやってくる。
ガリオン、グルア、ロケッツ、ベアニート、シャイターン、サーベンティア」
ガリオン。
鎧獅子。
ラクロアの闘技場で対峙した、若い個体でさえ、前足の一振りで簡単に人間を引き裂いていた。
そして、ルオーが名も知らぬ、数々の魔獣たち。
何万頭ものギャラクの群れ。
人の手では到底留めることのできぬ、獣たちの大移動が始まるのだ。
そしてそれらすべての上に君臨するのは。
「最後に目覚めて、なわばりを決めるのが、俺たち、竜だ。」




