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竜王と黄金のハート  作者: 葉月秋子


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      2 ライラ その1

2 ライラ その1



 ロードリアス南部で一番大きな城塞都市、アストラ。


 隊商の護衛の代金に岩狼退治の賞金も入り、懐の温かくなった二人は勝手がわからずキョロキョロと街を見回す竜の娘、ライラを宿に引っ張っていった。

 いろいろやばい話になりそうなので、大部屋で雑魚寝ではなく、気張って二階の個室を取る。


「さてっと」

 ワインの大ジョッキを傾けながら、レイヴンが言った。

「ファランドと言えば五本の指に入る上位の血統だが、シルヴァーンと婚約なんて話、初耳なんだがね」


「離れ雄には伝わってないでしょ。前期の末に長老会議で決まったんだから」

 ジョッキに鼻を突っ込んで匂いを嗅ぎ、味を見たライラは、気に入ったらしくぐいっとあおった。


「ああルオー、長老って言うのは、年取った雌たちのことさ。

 俺たち雄の竜はあんまり気にしないでいるが、雌の竜たちは交尾の相手にはうるさい。

 もう子を成すことがない年取った雌たちが集まって、竜種の始祖から始まる血統樹を管理してて、俺たちが一人で子を作ったり、まずい組み合わせになったりしないように気を付けている」

 

[一人で子を?

 竜の結婚なんて、考えてもいない事だったけれど。

 かってに相手を決めちゃいけないって事?]


「あのな、ルオー。

 俺たち竜は、この世で最強の生き物だ。

 そして創造主からもらった仕事を持っている。

 この世界の生き物すべてを、管理する、という仕事を」


「そう。だから竜は、一人でも繁殖できるし、他のどんな生き物とも子が造れるの。相手の姿を取ってね。

 だけど、竜自身が数を増やすのは、とっても大変なことなのよ」


 二人の竜から思いがけない話が飛び出し、ルオーは目を白黒させる。


「あんたたち、付き合い長そうだけど、こんな事も話してないわけ?常識でしょ」


 いえ、それ、竜だけの常識だから。


「おいおい、ルオーは人間だぜ。それに男同士でする話でもねぇし」

 ちょっと赤くなったレイヴンを、男って駄目ね、って感じでライラがにらむ。


 「竜は単体でも繁殖できるし、どんな生き物とでも交尾できる。

 でも、竜同士の(つがい)からでないと、強い竜は生まれないの。

 単体繁殖で生まれた竜は能力が格段に落ちるし、他の生き物と番ったときには、相手の姿をした子が生まれるの。

 だから、純血の竜は、始祖の母竜から血族結婚を繰り返してきた竜は本当に少ない。

 大抵の血筋には、何回か単体で生まれた竜の血が入っているのよ。

 シルヴァーンが特別なのは、そこなの。

 彼の血は一番濃い。

 彼の家系には一頭の単体竜もいない。

 その血統と、大きさと、強さ。

 竜王を名乗れるわずか数頭の竜の頂点にいるの。

 だから、絶対に、子孫を残す義務がある。

 

 それなのに、彼は人間の女なんかに目が眩んで、たらし込まれて、姿を消してしまったのよ!」


 ルオーはワインに噎せた。




「そんな情報、どっから出たんだ」

 レイヴンが呆れて言う。

「こういうことは前期の眠りにつく前に、長老たちが決定して、次の活動期が始まってすぐに知らせが行くものなの。百年の間にゆっくりお付き合いして、お相手を決めなさいってね。

 ところが、目覚めてすぐにシルヴァーンに知らせをやったのに、なわばりのねぐらに居ないのよ。

 人間なんかに惚れ込んで、数年も早く目覚めちゃったって言うじゃない。

 最大最強の竜王にそんな無茶までさせて、逃避行に連れ出した人間の雌なんて、許せないわ!」


 ライラはバン、と机を叩く。


「私は炎のファランドの直系の女。

 私の血に釣り合うのはシルヴァーンしかいない!

 ん・・・あと一頭いるけど、そっちは問題外!

 だから、人間に紛れてるはずの、シルヴァーンを自分で探し出そうと、飛び出してきたのよ!」


「危なっかしい奴だな。

 じゃ、シルヴァーンは、まだあんたのことを知らないんじゃねぇか。

 しかしよく人間に変化できたもんだ。

 普通、少しでも好意を持った種族でないと、変化は出来ないはずだが」

「人間は、嫌いじゃないわ。基本的にはね」


 ライラはちょっと微笑む。


「あたしのちっちゃい頃の気に入りの遊び場は、古い人間のお城だったの。

 前の活動期の初め頃に滅びてしまった、山の上の崩れかけたお城。

 そこにね。昔住んでいた女の子の部屋が、ほとんどそのまま残っていたのよ。

 お城の領主は、病気がちなかわいい一人娘にドレスや、本や、きれいな物をたくさん買い与え、大切にしていたの。あたしはそこで人間の文字の読み方を知ったのよ。

 彼女の日記が残っていてね。一ページめにこうあるの。

『まだ知らない、たった一人のお友達へ』って。

 まるであたしに見つけて欲しかったみたいに。

 これは、あたしにあてて書いてくれたんだって、感激したのよ」


 幼いライラはそこで、百年も前に塵に帰った少女への、深い友情を育んだのだった。


「でも、実際に人間たちと仲良くしようとしたら、みんなぎゃーぎゃー騒ぐわ、逃げ出すわ。

 変化して近づいたら、やっぱり逃げられるか、交尾しようと押し倒されるか、どっちかで。

 しょうがないから、そんなのはごはんにしちゃったけど、まずいの」


[まずい・・・って、味?]


「うん。人間てまずくて嫌い。小骨が多いくせに食べるとこ少なくて。五、六匹まとめないと食べた気がしないし」

「冷たいし、臭いんだよな、おまけに」


[レイヴンも食べたのか・・・]


「そう。変に生臭いの。特に酒臭い中年。お酒ってこんなにおいしいのに、酒飲みってどうしてあんなに臭いのかしらね」

「いや、あれがうまいって奴もいてな」

「やっだー。偏食ー」


 恐ろしい内容の会話のはずだが、怖くもなんともないのは、魚嫌いの子供のようなあっけらかんとした口調のせいだ。

 ルオーはふと、子供の頃を思い出す。カエルを食べる地方があると知って悲鳴をあげた女官達。

 ライラの嫌悪感はあれに似ている。

 じゃ、そのカエルに変化してみるというのは・・・。

 ライラがルオーの思考を捕らえ、けらけら笑いだした。

「そう!そんなもんだわね。

 そんな相手と恋に落ちるなんて、普通じゃ考えられないことよォ。

 だから頭の硬い年寄りの長老達にとって、シルヴァーンはとんでもない変態なんだわ」


[シルヴァーンが・・・変態・・・]


 ルオーは頭をかかえた。


 あれ?

 ライラは気付いた。

 この人間の若い雄と、普通に話してると思ってたけど・・・。


 この子、声出してないじゃない。








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