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竜王と黄金のハート  作者: 葉月秋子


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第六章 1 緋色のライララルーン

第六章


1 緋色のライララルーン


 ロードリアスの南、国境に近い空を一頭の竜が飛翔していた。


 活動期に入って六年。

 そろそろ大型の魔獣達が人里に現れ、人間は逃げ惑って都市に閉じこもる頃だが、竜の眼は草原と森が交わるあたりの街道に動きを見つけ、好奇心にかられて高度を下げた。

 十頭ほどの岩狼の群れ。

 取り囲まれているのは、二匹の人間。


 だが、しばらく眺めていた竜は、岩狼が獲物を狩っているのではないことに気付いた。

 逆だ。

 たった二匹の人間が、獰猛な岩狼を狩っているのだ。

 小柄な白っぽい頭と、それより大きめの黒い頭の人間。雄牛ほどもある岩狼の群れを相手に、二匹は見事な連携を見せ、余裕で動いていた。

 小柄なほうは俊敏に動いて相手の牙を寄せ付けず、大きなほうは陽気に豪快に剣を振る。


 小一時間して狩りが片づいた後、竜は舞い降りて、地上に降り立つ前に人間の声で叫んだ。

「逃げないで!聞きたいことがあるの!」


 だが着地してみると、二匹は始めから逃げる気などないように剣を収めて竜を見つめていた。

 小柄なほうはほとんど銀と言っていいほど色の薄いプラチナブロンドの、綺麗な若い雄。そして黒髪の雄のほうは・・・。


 竜は驚きの声を上げる。

「あんた!・・・竜ね!」

黒髪の雄はにやにや笑いながら顎に手を当てた。

「はてね。その赤い色は炎のファランドの血統だと思うが・・・あの一族にこんなちっこい雌がいたかね」

 ちっこい雌という言葉に銀髪の雄はちよっとびっくりした。

 輝く背から真珠の光沢を持つ腹まで赤、紅、朱の微妙に色の違う鱗に覆われ、金と白金のアクセントの入った、生きた宝石のような身体。額に煌めく竜印は深いルビーの赤。

 全長十二メートルを超すこの素晴らしく豪華な生き物が、ちっこい雌なのか。


「失礼な奴ねっ!雄の方から名乗るのが礼儀でしょうっ!人間なんかに変身して、竜の作法も忘れたのっ!」

「人間の前で名乗る気はないんでね。ま、仮にレイヴンと呼んでくんな。

 しかしあんたもこんなとこに降りるとは不用心だな。

 俺たちは大きな隊商の斥候なんだ。後ろに人間共がくっついて来てるぜ。大騒ぎでもおこしたいのか?

人型になれないんだったら見られないよう隠れてな」

「隠れる!たかが人間から隠れるですって?馬鹿にしないで!人型になるくらい簡単よ!」


 ぶわっ、と風が逆巻き、竜の姿が消えた。

 若い娘が立ち上がる。


 燃えるような赤毛がきらきらとメタリックに輝きながら生き物のように波打つ。真珠の光沢を持った肌。赤味を帯びた明るい茶の、煌く瞳。

 ほっそりした全身に紛れもない竜のオーラを陽炎のように纏った娘は、つん、と顎をそらして言った。

「どう?絶世の美女に見える?」

「見えない・・・」

 小柄なほうが考えなしにつぶやく。


 少女の眼がギラリと光った。

「まっ、まてっ!意味がちがうっ!人間に見えないんだっ!げっ!」

 あわてて相棒を庇ったレイヴンがまともに電撃をくらって飛び上がった。


 逆立った髪の毛を振りたてて叫ぶ。

「そんなに生気に満ちた人間なんているもんか!肉体と一緒に精神まで凝縮しちまうからいけないんだよ!散らせ!ぼかすんだ!」


少女はしばらく考え込んでいたが、ポケットから皮紐を取りだすと見事な赤い髪を後ろで一つに結んだ。

 全身から発散されていた煌めくようなオーラが少し弱まる。

「そうだ。眠ってた時のようにさ。身体の力を抜いて、意識を広げておくんだ」

「難しいわ。このまま寝ちゃいそう」

「ま、そんなものか。そのうち慣れるわ」



「さて。

 俺はレイヴン。こっちは人間のルオー。あんたは?」


「あたしは緋色のライララルーン」

 少女は名乗った。


「ところでなんで一人でこんな人里に飛んで来たんだよ」

 少女はにやりと笑った。肉食獣を思わせる獰猛な笑みだ。

「婚約者をぶちのめして連れ帰るためよ」

 胸を張って尋ねる。


「あんた達知らない?

 行方不明の竜王シルヴァーンの噂を」


 ルオーとレイヴンは思わず顔を見合わせた。


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