10 闘技場 その5
10 闘技場 その5
「左の鎖骨と肋骨が二本、折れております。全治一か月ですな」
「ひと月も試合に出られんと?
よかろう。城に留め置き、存分に楽しませてもらおう」
「安静にしてひと月って言ったんですよ、医者は」
小姓姿の男が、呆れる。
「ひと月も貴方に遊ばれたら、壊れてしまいます」
公爵に報告を終えて小姓が戻ると、病室の中が騒がしい。
包帯を巻いた青年が、兵士たちに取り押さえられている。
「こいつ、この怪我でも、逃亡を謀りました」
「あらら。じゃ、おしおきね」
若者に平手打ちをかませた兵士を、あわててしかりつける。
「だめだめ、顔は綺麗なままにしておかなきゃ。
今夜から公爵様がお使いになるんだから」
青年に近づき、その喉に手をかける。
青ざめた青年の顔からさらに血の気が引き、呼吸が早くなる。
「この奴隷には、これが効くんだ」
ゆっくりと力を込め、首を絞めた。
その夜更け。
城の台所で、翌朝の仕込みをしていた料理長が下男をぶっ叩いていた。
公爵専用の高価なワインが、デキャンターごと消えたと言う。
客用寝室を整えていたメイドが、悲鳴をあげて飛び出してきた。
窓から悪魔のように恐ろしい顔がのぞき込んだと震える。
その城の、主の部屋。
声をたてぬ青年は巨大な寝台にうつ伏せにされ、数人の男に頭と手を押さえられて、背後から公爵に貫かれ、苦痛のあまり敷布を噛み裂いて悶え苦しんでいた。
「みーつけた」
のんびりした声に驚いて顔を上げた公爵は、眼を疑う。
豪華な寝台の幅狭い背板の上に、絶妙なバランスでしゃがみ込んだ黒髪の男が、人の悪そうな笑みを浮かべて、強姦する男たちを見下ろしている。
その声に、朦朧とした青年の心に浮かぶ、キラキラと光る眼をした漆黒の鳥。
『レイヴン!』
「よぉ、遅くなってすまねぇ。探すのに手間取っちまったよ」
『剣!』
青年が心の中で激しく叫ぶ。
使い慣れた細身の剣のイメージ。
「混乱してるな。あれは折れたろ。俺の使うか?」
いきなり青年の頭の近くに落ちてきた、鞘ごとの剣。
渾身の力を振り絞った青年は、驚く男たちの束縛を振り切り、飛びついて鞘をはらう。
嬲られていた獲物が、牙を持つ野獣に変わった。
剣闘士「無音の閃光」が、武器を手にして立ち上がる。




