8 闘技場 その3
8 闘技場 その3
十日後、次の興行日。
剣闘士養成所の所長ガランドルは、出場者リストに「無音の閃光」の名を見つけ、闘士の控室に出向いた。
見なれたプラチナブロンドに近づいた所長は、その変わり様に息を呑む。
あのまま公爵に連れて行かれ、わずか、十日間の間に。
二年間鍛え上げてやった、心身のバランスが崩れている。
こけた頬。落ちくぼんだ目、その目の荒々しいすさんだ光。
「おい」
大丈夫か、と、ガランドルは思わず若者の肩に手を触れた。
びくり、とその身体が跳ね上がる。
(畜生。奴らに何をされた)
一瞬の油断が命取りとなる、試合の前にこの状態とは。
ここまで育て上げたこいつをここで壊す気か。
ガランドルは拳を握りしめる。
獣に喰わせるはずの奴隷を、拾って剣闘士に仕立てていたのかと、興業主とさんざんもめた後だった。
『喰わせる時期を指定されちゃいなかったろうが。そっちもあいつの人気でたっぷり稼いだはずだ』
と、無理やり押し通して来たのだったが。
だが、これ以上公爵に盾突くわけにはいかない。
この手で勝ち取った自由と、妻子。
自分には、決して手放せないものがある。
こいつはもともと、公爵の所有物。奴には奴隷の生殺与奪の権利があるのだ。
愛用の細剣を手に、闘技場に出ていく若者の背中に向けて、一言つぶやく。
「死ぬんじゃねぇぞ」




