2 活動期 その2
2 活動期 その2
「ワインがやならエールはどうだい?」
シャーリングのたっぷり入ったブラウスで胸元を強調した若い娘が、若者に声をかける。
「あたいが仕込んだんだ、よく泡立った濃いのがあるよ」
「泡が立つやつは、苦手なんだ」
若者がちょっとはにかむ。
へーっ、と少しあきれた娘は、肩をすくめて話題をかえる。
「人探しだって?あんたのいい人?」
「いいや、ただのガキだよ。
ロードリアスで別れた時、ここへ向かうと言ってたんだ」
はっ、と娘は胸をおさえる。
「ロードリアス?あの戦の時、あっちにいたの?
あたいもあっちから来たんだよ。
父さんの酒場が焼かれて、母さんが殺されて。
二人の弟は兵隊に連れていかれたよ。
ラクロアで売り飛ばされて、奴隷にされるんだって」
生きてはいるだろうけれど、もう二度と会えない、と娘は涙ぐむ。
「奴隷に?ふーん、ラクロアかぁ」
ここで会えなきゃそっちまで探しに行くか、と若者は呑気に言う。
「ラクロアに行く?
おいおい、あっちは敵国だぜ。
それに国境あたりはやばいらしい」
毛皮をほめた狩人が言った。
「国境付近で飛狸や岩狼がやたらに増えとるそうだ。
平角大牛の姿を見た者もいる」
「あ?活動期が始まったもの。あたりまえじゃないか」
さらりと言った若者の言葉に、皆がぎょっとした。
「活動期が始まったから、小物はみんな南から逃げ出してくるんだよ」
「岩狼が、小物だと?」
問われて若者はしゃべりだす。
大地を埋め尽くし、移動していく平角大牛の群れ。森の高い樹々を引き倒し、梢の若い葉をむさぼる巨樹獺。
それを狩り立てる肉食獣たち。
猫がネズミを振り回すように、岩狼を翻弄する鎧獅子。それを踏み殺す山叔父。空を舞う飛虎。視界を覆うほど広がる翼鯨。
そしてそれらすべての上に君臨する、竜。
「気温が上がる南から、目覚めて、増えて、広がってくるんだ」
「・・・見てきたような事を言いやがって・・・」
「そんなやつらが、こっちへ・・・」
青ざめ、冷や汗を流しながら、男たちがつぶやく。
「・・・竜王様・・・」
娘がささやくように言った。
「ロードリアスを守護してくださる竜王様・・・。あのかたが、もうおられない・・・」
はるか南。
ラクロアの都、ロアヌークへ向かう隊商が、途中の宿場町で商品を補充していた。
鉄の檻の中で唸り声をあげる岩狼。
その隣の檻の戸が開けられる。
店の中からぐったりした少年の体が運び出される。
「これも入れておけ。公爵様は若く細いのがお好みだ。
使えなきゃ闘技場で鎧獅子の生き餌にするさ」




