7 ホーン その7
7 ホーン その7
[今日に決めよう]
少年はまだ少し足を引きずりながら、空き地の中央に進み出た。
痩せた体に残る大きな傷跡が痛々しい。
どれほど時が過ぎたのだろうか。
シルヴァーンを失った時、肩に届かなかった切りそろえられた薄い色の金髪は、背の半ばまで伸び、獣の白いたてがみを編んだ紐でひとつにまとめられていた。
着ているものは前より少しまし、程度のぼろ布一枚。
食べ物と一緒にいつの間にか置いてあったそれは、少年本人と同じように河から引き上げられたもののようだった。
破れたぼろだが、虫よけの薬草と泥をすりこんで洗っているので、清潔ではある。
エラのハーブ畑で一緒に過ごした時の知識が、思わぬところで役に立っていた。
空き地の中央に立ち、姿の見えない相手に呼びかける。
声は出したくなかったが、心を繋ごうとすれば、もっと嫌がられるだろう。
「助けていただいてありがとうございました」
少年は目上の人に話すように丁寧に呼びかけた。
「もう、大丈夫です。僕は行きます。
僕の大切な人を取り戻すために。
どっちへ行ったらいいのか、教えてくださいませんか」
空き地は静まりかえり、小鳥の声が響いてくるだけ。
だがしばらく待つと、藪の一部ががさがさと揺れた。
見事な獣が姿を現す。
純白の毛並み。乳白色の螺旋。輝く黒い瞳。
この世のものとも思われぬ美しさに、少年はため息をついた。
だが一歩踏み出すと、獣は藪に消えた。
ちょっとまごつく。
人里だと思っていた方向とは、逆なのだ。
だが、すぐに気を取り直し、後を追う。
藪をかき分けると、かすかなけもの道が森の奥へと続いていた。
何日も、森の奥へ、奥へと少年は歩く。
人間以外の者の意志に従う事に慣れていたので、美しい案内者の意図を疑う気持ちはまったくなかった。
美しい獣は、道を示す時以外、姿を現さない。
だが離れることなく、近くを歩いているのがわかる。
果実を、木の実を与え、水場へ導き、少年が辿るべき道を示す。
けっして近づかない、触れさせない、誇り高い獣。
何日歩き続けたのか、もう数えるのをやめた頃。
森の樹々が、少し幹が細く、若いものになって来た。




