5 ホーン その5
5 ホーン その5
いつもと違うものが置いてある。
ひと掴みの木の実。一つだけ割ってある。
中身を口にした少年は、脂肪分の高い濃厚な味に感激した。
ゆっくりと噛みしめて味わう。
いつから果物だけで命を繋いで来たのだったか。
もっと食べたい。何か殻を割るもの。
平たい石を、二つ。
痛む体を引きずり、何度も休みながら、少年は河辺へ向かった。
なかなか思う大きさの石が見つからない。
少しの運動で息が荒くなった少年は、河に張り出した柳の大木に寄りかかるようにして休んだ。
目を上げると、良さそうな石が水に洗われている。
柳に片手をかけて、少年は水辺に下りた。
そして。
河岸の泥に足をとられ、滑った。
枝垂れる柳につかまろうと手を伸ばすが、治りかけた傷口がひどく引き攣れた。
おぼつかない足元を急流が攫う。
下半身が水に落ち、流された。
必死でつかまろうとする手から、細い枝がすり抜けていく。
流される!
恐怖で凍り付いたとき、肩を誰かが掴んだ。
白く長い毛が下がってくる。
『掴まれ!』
白い毛に手を絡ませると、痩せた体がすごい力で引き上げられる。
岸辺に転がった少年は、全身の痛みに声も上げられず悶えた。
その手から毛が引き抜かれる。
引き止めようとした手が激しく振り払われた。
蹄の音が遠ざかる。
「まって!行かないで!まって!」
木漏れ陽の中、美しい獣が歩み去る。
陽射しを受けて額に輝く、一本の角。
夢じゃなかった。
なんて綺麗な。
振り向きもせず行ってしまう獣を、少年は寂しく見つめた。
「・・・なぜそんなに、僕を嫌うの・・・?」
つぶやくその手には、獣の白いたてがみの毛が何本も絡まっていた。




