3 ホーン その3
3 ホーン その3
そこは森の中の、小さな空き地だった。
程遠くないところから、河の流れる音がする。
苔むした大きな岩がいくつも転がり、大人の十人も手を繋げばやっと届くか、という太さの樹々がそびえ立っている。
だが、そこは、以前大きな樹があたりを巻き添えにして倒れたのだった。
朽ちかけた倒木が何本も横たわり、開けた樹上から陽光が差し込む。
光を求める草と若木が、競うように空き地を埋め尽くしていた。
岩と大きな木の根の間に乾いた苔が厚く敷かれ、そこに少年は横たえられていた。
少年は目を閉じたままあたりの音を聞くともなく耳に入れていた。
熱が下がって、少し考えをまとめられる。
何があったかほとんど記憶がない。
だが、もう聞きなれた音が近づく。
まぶしそうにうっすらと目を開いた少年の前に佇むのは、一頭の馬だった。
純白の、美しい、大きな馬。
頭を下げて、少年に近づき、口にくわえた瑞々しいマコーの実を、少年の顔の上で砕く。
乾いた口に入る、さわやかな甘さ。
初めてはっきりと意識を持って、少年は喉を鳴らして滴る果汁を飲んだ。
右手はまだまったく動かなかった。だが、左なら・・・。
少年はひどい痛みに耐えて、柔らかな鼻面に手を触れようとした。
獣は荒々しく飛びのいて、力なくのばされた手を避ける。
前足が激しく大地を蹴り、振動が横たわった体に伝わった。
間違えようもない、激しい怒り。
「ごめんなさい、怒らないで、どうか戻ってきて」
少年は呼びかけるが、蹄の音も高く白馬は素早く離れていった。
木立に入る前に、一度だけ振り向いた。
その白い額に、振り上げた三日月刀のように、美しい曲線を描いて生える、一本の角。
乳白色に輝く、反り返った螺旋。
生命力に満ち溢れた、その姿。
・・・馬では、なかったのだ。
少年は、その獣の名を知らなかった。




