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竜王と黄金のハート  作者: 葉月秋子


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      2 ホーン その2 

2 ホーン その2



 ・・・シルヴァーン・・・シルヴァーン!


 子供は呼んだ。呼ぼうとした。

 何も見えない。何も聞こえない。

 あるのはただ、息もできぬ苦痛だけ。


 ・・・もう、死ぬんだ・・・。

 子供はぼんやりと思った。

 死にたくなかった。

 ・・・シルヴァーン・・・。

 懐かしい、竜王の大きな手。

 暖かいその手が、額に触れる。

 その感触を最後に、意識が混濁する。




[・・・甘い・・・]

 何か甘いもの。唇を濡らす、水。

 果実が一つ口の上で潰され、その汁が口に滴ってくるのだが、子供にはわからない。

 弱々しく甘い果汁を吸い、また気を失う。



 日に数回、口に入るわずかな果汁だけが、消えかけた少年の命をつないでいる。


 だが、飲み込む力もほとんどない少年は、果汁にむせて、死にかけた。

 咳き込む衝撃で傷が開き、折れた骨が動く、

 耐え難い苦しみ。

[もうやめて・・・この苦しみを止めて・・・]


『死ぬか?』

 闇の中から声がする。

『飲まなければ、死ぬ。死ぬか?』


[いやだ!]

 少年の心が叫ぶ。

[僕は生きる!生きて、取り戻す!]


 何を取り戻すのか、朦朧とした意識は形を取れない。

 だが少年は痛みに悶えながら果汁を啜る。


『いい子だ』

 静かな声が言う。


 そう言ってくれた、もういない相手を求めて、少年は心をのばす。


 掴むもののない、暗黒。


 だが少年の心が悲鳴を上げる前に、温かいものが頬にふれる。

『いい子だ。眠れ』

 少年の涙をぬぐう、暖かいもの。

[・・・シルヴァーン・・・]

 少年は再び意識を失う。




 一日の大半を意識なく過ごせるのは幸せだった。

 目覚めれば激しい苦痛が待っている。


 渇きを覚えると、口に入る果汁。

 人の足音より重々しい、誰かの近づく音。

 すがろうとすると遠ざかる、しかし傍で見守っているとわかる、誰かの心。

 朦朧とした頭に残る、記憶の断片。


 誰が助けてくれたのか、少年はまだ知らなかった。

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