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竜王と黄金のハート  作者: 葉月秋子


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第四章 1 ホーン その1

1 ホーン その1



 領土の中で竜の匂いがする。

 ホーンは河辺に向かった。


 竜自身ではない。誰か、竜気を帯びた者。

 突然、吐き気と怒りに襲われる。

 人間の匂い。

 だが、竜気を帯びた人間?

 その矛盾が好奇心を呼んだ。

 二度と嗅ぎたくなかったその匂いを、調べてみる気になったのだ。


 打ち上げられていたのは、人間の子供。

 もう、死にかけている。竜気に守られていても。

 ホーンは炎が子供を抱いているように感じる。炎の中から黄金の眼が辺りを睥睨する。

『これを害してはならぬ』と。

 残留思念と呼ぶにはあまりに強い、竜の守護の意志。

 岩狼が来たようだが、なるほど、これでは近づけまい。


 だが、これはもう死ぬ。


 見ているうちにかすかな呼吸が止まった。

 流してしまおうとホーンは近づく。

 子供の痩せた身体が弱々しく痙攣した。唇が震え、喉が動く。

 生きようとする最後の足掻きだ。


 その時。

 ホーンの角がビリビリと震えた。

 角の根元が熱い。

 ・・・子供が竜を呼んでいる。


 子供の最後の意識、断末魔の心が竜を求め、ホーンの角の竜気が共鳴したのだ。


 なぜ行動に出たのか、わからなかった。

 臭いぼろ布をくわえて、水から引き上げていた。

 胸を押すと、子供は気管を塞いでいた水と血を吐き、息を取り戻した。

 だが、押したときの嫌な動き。肋が折れている。


 ぼろ布が破れて裸同然になった子供の状態に改めて気づく。

 痩せ衰えた小さな身体は無惨に打ち砕かれていた。

 腹に触れたときの子供の激しい恐怖に、ホーンは憎悪で吐きそうになった。

 いやでも、見えてしまった。

 投げつけられる石。追いつめる大人たち。


 この子は同族に傷つけられたのだ。同じ人間に。これほど残酷に。

 ここまで傷つけられ、さらに急流を流された時の酷い裂傷と打ち身。

 なぜ生きているんだ、これで。


 ・・・竜気か。


 竜よ、おまえの守護がこれほどの呪いとなってこの子を苦しめ続けるとは、思ってもいなかったろうな。 苦痛を長引かせるより、今、この額、蹴り割ってやろうか・・・。

 子供の額に意識を向けたとたん、子供が涙を流した。身じろぎし、唇が震える。

『・・・竜・・・王・・・さ・・・ま・・・』

 たとえようもなく安堵した子供の心が、羽のように柔らかく触れてくる。

 小さな手が実際に触れたような気がして、角が震えた。


 私を竜だと思ったのだ。この、角の竜気のせいで。


 ホーンは立ちつくした。

 胸の中を様々な感情の嵐が吹き抜ける。

 ここまで気持ちを乱す不思議な人の子を、ホーンは激しく憎んだ。


 よかろう。竜を求める人の子よ。生きてみるがいい。

 その苦痛に耐えてまだ生きたいと望むなら、機会だけは与えてやろう。

 だが一度でも苦しみのあまり死にたいと願ってみろ、即座に頭を蹴り砕いてやる。


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