10 シム その10
10 シム その10
その夜半、パルに続いて二人の子供も熱を出し、老人とおかみはあわてた。
明け方、子供たちの体に赤い発疹が出たのを見つけて、おかみはほっとしたように言う。
「心配ない、これは三日熱だね。
煎じたギードの根を飲んで、三日寝てれば熱がひくよ。
子供同士は伝染るけれど、大人はめったにかからない病気だ」
はっ、と気づいて、老人に薬袋を渡す。
「あっちの子供たち!あの子たちにも伝染っているはずだよ。
この薬、届けてきておくれ。代金なんかいらないから!」
しかし、老人が駆けつけた時、共有地に奴隷商人たちの姿はなかった。
「急ぎの旅の商人たちが、渡し船を待たずに、峠越えして南に向かうことにしたんだ」
「あいつらはそれについて行ったよ」
「子供連れじゃ無理だって、止めたんだけどねぇ」
それを聞いたおかみは泣き崩れてしまった。
「何てこと!可哀相に、可哀相に!
薬も手当を知ってる者もなくて!
この病は見分けるのが難しいんだ。
熱と発疹で、灼熱病と勘違いする人が多いんだよ!」
「灼熱病・・・」
老人は顔色を変えた。
隔離が義務付けられている、伝染病である。
がたん、と奥の戸が開き、片腕を吊ったシムが現れた。
「薬、ください。俺が届ける!」
「何を言うか!」「寝てなきゃだめだよ!」
おかみが奥へ押し戻す。
「無茶するんじゃない!今度こそその腕をなくすよ!」
「でも、ルーが!あの子たちが!」
脂汗を流しながら、シムはうめいた。
「ルーを助けなきゃ!あいつは・・・あいつは・・・」
少年は二人を見上げて必死に言った。
「あいつは言ったんだ。ある人に、命を懸けて助けてもらったって。
その人のために、絶対に死ぬわけにはいかないって。
でも、それじゃ逃げろって言ったら、あいつは言うんだ。
ちっちゃい子を見捨てて逃げられないって。
その人に恥じるような生き方は出来ないって。
あいつは、死んじゃいけないんだ。
俺、一生あんたの奴隷になるから。なんでもするから。
あの子たちを、ルーを、助けてくれ・・・ください!お願いです!」
老人は唸った。
あの少年の、澄んだ青い目。
たとえ高位の貴族の子だろうが、めったなことでは、そんなふうに堂々と言えるものではない。
共にいたわずかの間に、この盗人の少年にこれほどの忠誠心と責任感を植え付けていった、あの子はいったい何だったのだろう。
「わかった。儂が行く」




