8 シム その8
8 シム その8
印持ちと三人の子供、合わせて銀貨一枚の売買契約を済ませ、カンカンになった小男が出ていくと、奥の戸が開き、若い夫婦が顔を出した。
「あの、ありがとうございました」
「奴らが出立するまで、出歩かんほうがいい」
「馬車は鍛冶屋に預けておいて、船が動くまで隠れておいで」
老人とおかみが優しく言った。
「見つかって因縁をつけられたら、おじさんに言いつけるぞって言うんだよ」
赤子を抱いた女性がふっと笑う。
「実の叔父は、川向うで細々と羊を飼っているのですけれどね」
「やっと都で小さな店が持てたのに、戦で焼け出されて、このざまです」
若い夫がため息をつく。
「店も蓄えも失いました。奴隷の弁償金なんてとても払えない。本当にありがとうございました」
夕方、老人は集落の共有地を見回る。
渡し船の再開を待つ人々の、夕餉の煙があちこちで上がる。
[早く渡しが始まらんと、また厄介ごとが増えるわい]
皆、戦から遠ざかろうと必死になっているのだ。
共有地のはずれで、あの小男が大柄な仲間に必死で言い訳をしているのが見える。
あ、殴られた。
[ふん、いい気味じゃ]
しかし、この残った子等がとばっちりを受けなければいいが。
仲間のけんかに気を取られている見張りの目を盗んで、縄でつながれた薄汚れた子供たちに近づくと、一人が膝立ちになって小声で言った。
「どうか教えてください、シムは無事ですか?」
育ちのいい子らしい丁寧な言葉だった。
十歳くらいか。汚れはてた金髪と、青い目。痩せてはいるが、顔立ちは良い。
「怪我はしとるが心配はいらん。わしが買ったよ。他の三人もな」
よそを向いたまま、少年のそばにおかみから預かったパンの袋を落としてやる。
ほっとしたように、少年が笑った。
「よかった。ありがとうございます。
シムをお願いします。責任感の強い、良い子なんです」
老人は、びっくりした。
では、この子がまとめていたのか。自分より大きな子が何人もいる、この雑多な集団を。
体は小さいが、思ったより年上だと気付く。十一か、十二のようだ。
きっとロードリアスの、身分ある貴族の子なのだろう。
口惜しさにうなって髭を噛んだ。
人買いが一番高値をつけそうなタイプなのだ。頭脳ではなく、体を使うために。
何処かの変態野郎が、高値で買っていくだろう。
この聡明な子供が、ラクロアの腐った貴族どもの玩具となって果てるのかと思うと、はらわたが煮えるようだった。
「そのガキ!口を閉じてろ!」
見張りが気付いて鞭を鳴らす。
小さな子たちがひっと飛び上がって、少年にすがりついた。
「そなた・・・名は何という?
身代を贖えるような親族など、いないのか?」
いたら必ず知らせてやるがと、立ち去り際に老人が言うと、少年は静かに首を振った。
「僕は・・・ルーです。
シムに伝えてください。あの三人を頼むと。
そしてこれからも、できるだけ、ほかの子たちの助けになってやって欲しいと」




