第三章 1 シム
1 シム
森深いロードリアスからラクロアの平原に向かって流れるテス河。
河を見下ろす高台に小さな守備の砦があり、渡しの船着場そばに宿屋、雑貨屋、鍛冶屋が寄り集まって小さな集落が出来ている。
老人は宿の前に座って、行きかう人々を監視していた。
ラクロア軍の侵略路から離れたこの地域も最近は物騒になり、村では自警団をつくって脱走兵や夜盗の警戒にあたっていた。
退役して近くで小さな農場を営む老人はラクロア戦役で戦った腕をかわれ、この非常時に船着場の守りを任されていたのだ。
人々が老人の前を通り過ぎていく。戦の後の混乱をまざまざと見せつける人々の群れ。
傭兵、避難民、一攫千金を狙う男達、・・・そして奴隷商人。
軍人の眼で人々を眺めていた老人は、その集団の一つに興味を持った。
一団だけ統制がとれている。
十数人の子供を野卑な男達三人が引き連れている。他の奴隷商人達と何の変わりもない。
だが子供達の様子が違った。
わけもわからず怯えて泣きじゃくる群れではない。
大きい子が幼い者の手を引いている。
ひ弱そうな子供達が男達から遠い中央に集まり、少し大きい子達が僅かな荷物を持って周りを囲んで歩いている。
一番大柄な少年は、足に包帯を巻いた小さな子をおぶっていた。
子供達の顔は大雑把だが一応拭かれ、幼い子の額には紅のかわりに赤土で魔よけの竜印がつけられていた。
竜王の加護があるように、三歳くらいまでの幼子の額に竜印を模して紅をつける、ロードリアスの風習。
老人の胸が喪失に激しく痛む。
平和で穏やかであった祖国、ロードリアス。
そのロードリアスの子供達が、売られていくのだ。




