19 襲撃 その3
19 襲撃
ルオーはよろめきながら屋敷へ走った。
エラを連れて、逃げなければ。
血に染まった上着に包んで抱きしめているものが、次第に体温を失い、冷たく重い物体に変わっていく。
本当に、本当に、竜王様は生き返るんだろうか・・・?
レイヴンが上を飛びながら言った。
「本当だとも。だが、誰にも言うんじゃない。
人間には知られてない事だ。
敵に知られてみろ、奴等、シルヴァーンをバラバラに切り刻んじまうぞ。
そうなったら、こんどこそおしまいだ」
ルオーは喘いだ。
震えあがって足がもつれ、倒れそうになる。
必死で最悪の場面を頭から振り払い、走る。
「止まれ!ちびっ!」
レイヴンが押し殺した声で叫ぶ。
「前から来る。隠れろ!」
藪に飛び込んで、兵士の一団をやり過ごす。
聞きなれぬ訛りで話しながら、すぐ傍を通って行った。
・・・いや・・・どこかで聞いた事がある・・・そんな思いが、ちらとルオーの意識をかすめた。
レイヴンの先導がなければ、戻れなかったろう。
何度も兵士たちをやり過ごし、ルオーはやっと館にたどり着いた。
「エラ!」
裏口から走り込んだ、ルオーの足が止まった。
台所の石畳に倒れているエラ。
血だまりの中で、驚いたように眼を見開いたまま。二度と笑わぬ顔を、固く強張らせて。
卓の花瓶が砕け、庭から切ってきたばかりの瑞々しい花々が、それを育てた娘の周りに散らばっていた。
ここを出たのは、ほんの数時間前だったのに。
もう、竜王様も、エラさえも、いない。
「国王陛下!」
低い叫び声に、ルオーは振り返った。
父の姿を一瞬探し、その名称が自分のものだったと気付く。
黒いドレスの女官長が走り寄り、血まみれのルオーの凄まじい姿にぎよっとする。
「ご無事でしたか!こちらへ、陛下。
お急ぎください!
ギリアスの配下に見つかったらお命はございません!」
ルオーは身構え、後ずさった。
もう、誰が味方なのか。
「陛下!」
女官長の顔を見つめ、心を決めた。
だがその前に、居間の小卓に掛かっていた天鵞絨の布を掴んだ。
女官長が気づかなかった物を包み込み、胸に抱え、頷く。
「さあ、こちらへ!」
林を抜け、王宮の裏へと導かれる。
遠くで大勢の人の騒ぐ声。怒号。悲鳴。
「王宮も、神殿も、ラクロア兵だらけです。
王宮の使用門からお逃がしします」
レイヴンはどこに消えたのか。
ルオーはおぼつかない足取りで、女官長の後に続いた。




