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竜王と黄金のハート  作者: 葉月秋子


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      18 襲撃 その2

18 襲撃



 倒れた竜王と、ルオーの間に、マントの人影が立ちはだかる。

 フードをおろし、竜王を見下ろす、痩せた神経質そうな顔。

 セネカ。

 

「これで終わりか。あっけないものだ」

 軽い言葉と裏腹に、セネカは竜王の身体を憎々し気に足蹴にし、少年に見せつけるように竜王の顔を踏みにじった。

「シルヴァーン!」

 血を吐くようなルオーの叫び。

 彼の竜王の、大切な竜王の顔に足をかけたまま、青年は笑った。

 鞘走る、レイピア。


「ごらん、王子。お前の守護者の最後を」


 動くことも出来ずに、ルオーは見つめた。

 青年の顔に浮かぶ残酷な笑みを。

 その手のレイピアが、彼の竜王の心臓を貫くのを。

 断末魔の苦痛に弓なりに跳ね上がる竜王の身体を足でねじ伏せ、セネカは残忍にレイピアを捩じる。

 全身を痙攣させ、最後の息と共に、竜王シルヴァーンは動きを止めた。


 青年はその顔に狂気じみた笑いを張り付かせ、絶命したのを確かめるように、息絶えた竜王の身体を何度も足で踏みにじった。

 恐怖と憎しみに憑かれたように。


 気が済むまで暴行を加えると、手を上げ、合図する。

 兵士たちの中から馬を引いた男が現れ、竜王の(くるぶし)を革紐で縛り、端を鞍に括りつけた。

「よし、手に入れた。

 城の周りを引き回せ。

 抵抗を続ける兵たちに、彼等の守護神の死を見せつけてやるのだ」


 金の髪を無惨に地に這わせ、レイピアで貫かれたまま、竜王の身体が馬で引きずられていく。

 両足を鞍に縛り付けられ、埃の中に血の跡をひいて。

 処刑された罪人の死体のように。


 呪縛されていたルオーの身体が動いた。

「やめろ、触るな!

 シルヴァーンを返せ!シルヴァーン!」

 

 セネカが振り返った。

「子供に用はない。殺せ」

 最後尾の兵士二人が振り向いた。



 向かってくる兵士など眼に入らないまま、ルオーは竜王を連れ去る一行を追おうとする。

 簡単な仕事とばかり、兵たちは近づき、剣を抜いた。

 だが、頭上から大きな叫び声が響く。

 はっと我に返り、振り上げられた白刃が眼に入った途端、ルオーの身体が反応した。

 とっさに身を屈め、一人の足の間を潜り抜ける。

 鎧の重みで動きの鈍い兵はあわてて振り向き、もう一人と衝突する。

「このドジめ!」

 少年を見失ってまびさしを上げた兵の顔に、黒いものが襲いかかった。

 絶叫と共に眼を押さえて倒れる兵士。

 もう一人にも、黒いものが飛びかかる。


 眼を潰された兵士たちが喚きながら離れていく。


 ルオーの肩に舞い降りたレイヴンが、翼でばさばさと少年の頭を打った。

「しっかりしろ、ちび!

 シルヴァーンは連れ去られた。今は取り戻せない。逃げるんだ!

 彼の右腕を忘れるな!」

「・・・シルヴァーンは・・・シルヴァーンは・・・」

「呆けてる時じゃないって!俺たちは竜だぞ!

 たとえ人型を取っていようと、竜王があんな程度で死ぬものか!

 ちやんと生き返るさ!

 だが、あの腕がないと!」

 レイヴンは言い淀んだ。

「あれだけの質量を失うと、奴は竜形に戻れなくなるんだ!

 だから、俺みたいに心だけ飛ばせばいいものを、無茶しやがったから、あのヤロー」


 言葉の意味が分かるまで、数秒かかった。

「・・・いき・・・かえ・・・る・・・!!」


 振り向き、転がるように駆け出して行った。

「あ、こけた・・・」

 烏は、起き上がりびっこを引きながら、泥まみれになって走っていく少年を見送り、ばささ、と身震いする。


「さーてと。

 活動期がはじまるってぇのに、ロードリアスの守護竜がいなくなっちまったぞ。

 どーなっちまうのかなぁ、これから」



 

 


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