16 崩御 その3
16 崩御 3
その日。
めずらしく姿を見せたセネカが、慌てふためいて駆けて来たので、ルオーは驚いた。
いきなりルオーの前に片膝をつき、凶報を告げる。
「父上が!?亡くなられた?」
「狩りに御出立の時、御愛馬が突然跳ね上がったのです。
生垣の中に落馬されたのですが、運悪く鋭い枝が御眼に・・・」
セネカはルオーの前に深く身を屈めた。
「ルオー様、ウィリアムルス六世亡き今、ルオー様がロードリアスの新国王であらせられます」
ルオーは真っ青になった。
「僕は国王になどならない」
きっぱりと言った。
「僕は竜王様の『黄金のハート』
その他の者になる気はないと、王妃様とギリアス様にお伝えしておくれ」
「おそれながら」
セネカは声をひそめた。
「正規の使者が来る前に、『水の一位』様に『水』の館へご案内するように申し付かり、駆けつけて参ったのです。
どうか、『水の一位』様にご相談なさるまで、軽々しい発言はお避け下さいますよう」
さらに声を落として言う。
「ジェムソン王子に王位を譲られ、ロザムンド様を摂政にされることは、ローレル公爵家の方々の処刑に同意されるも同じ事です」
ルオーは息を呑んだ。
「ディオルト殿に譲位されれば、ラクロアに宣戦布告したも同然。
ギリアス殿から正規の使者が来る前に、『水の一位』様にお会い下さい。
どうか、王宮に戻られる前に、この先の事を『水の一位』様とご相談なさってください。
そのために、何を置いてもと飛んでまいりました。
ご案内いたします」
ふらふらと立ち上がったルオーを、エラがぎゅっと抱きしめた。
「おかわいそうに、大丈夫、大丈夫です、ルオー様。
竜王様がついていて下さいます」
「ルオー」
近づいた竜王が、気づかわし気にルオーの顔を見下ろす。
人と違って雄の竜に親子の情は薄い。
しかし、ひどく動揺した少年の様子が気がかりだった。
ルオーはしっかりと竜王を見上げた。
声の震えを押さえて、言う。
「『水の館』に行きます」
「お急ぎください、こちらです」
セネカの先導で、林の中の小道を、『水の館』へ急ぐ。
だが。
「まて、ルオー」
竜王が、立ち止まった。
前方の、人の気配。
だが、姿を見せたのは、ギリアスの使者ではなかった。
赤ら顔の騎士に率いられた兵士の一団が現れ、二人を取り囲む。
セネカが、じりじりと離れて行った。
「ロードリアスの竜王殿とお見受けする」
騎士が嘲るように言った。
その後ろから歩み出た男が、近づく。
半眼の、瞬かぬ、蛇のような眼。
声も出さずに剣を鞘走らせ、いきなり竜王に切りかかった。
ルオーを後ろに庇った竜王が剣を抜き、迎え撃つ。
ギン!と交わった乳白色の刃。
その色と、異常なまでの腕力に、竜王は驚く。
そして。
「む・・・?」
竜王は眉を顰めた
機械仕掛けの戦士のように、黙々と剣を振るう男の身体から漂う、異臭。
死肉の、腐敗臭か?
(この男は・・・いったい・・・)




