13 裏切り
13 裏切り
その少し前。
神殿の一角にひそかに集まった数人がいた。
大神官ギリアス、『火の一位』将軍、王妃ロザムンド・ド・ラクロア。
そして新参者のゲント男爵。
いかにも粗野な田舎貴族、といった雰囲気の、大柄な赤ら顔の男だ。
男爵の後ろに、フード付きマントを深くかぶった二人の男が立っている。
「では、話すがいい」
ギリアスの声に、フードの一人、小柄な方が進み出る。
男が動くと、マントに焚き染めた安物の香と、かび臭いような嫌な臭いが混ざり合って漂う。
王妃がハンカチを取り出した。
小柄な男が、フードを取った。
青白い顔をした貧相な青年。
神経質そうに眼をしばたたきながら室内を見回す。
「『水』の館で見た顔だな」
『火の一位』将軍がつぶやき、青年はぎくりと身を縮める。
ギリアスが軽蔑の眼差しを投げる。
「お互い、詮索はせぬ約束じゃ」
将軍はふん、と鼻であしらい、話せ、と顎をしゃくる。
青年はささやくような声で言った。
「竜王の存在が、あなた方の大きな障害となっています。
しかし、竜王を排除する方法があると言ったら?
竜王さえいなくなれば、ルオー王子を廃嫡するのはたやすい事。
そしてその機会は、今しかないのです。
あと二年たち、竜王が竜体になってしまったら、こちらに勝ち目はありません」
「それはいつでも同じだろう。
危険を感じれば、竜王は即座に竜となって、王子を守るのではないのか」
ギリアスが問うた。
「いいえ、今しかないのです。
なぜなら竜王は竜にならないのではない。
あと二年間、竜体になれないのです」
青年は身を乗り出す。
「活動期以前に竜体になることは、非常な負担となるのです。
竜王のように巨大な力を持つ者にとっては、体内のバランスを崩すだけでなく、周囲にまでも大きな影響を与えてしまう。だから人の姿を取っているのです。
人型ならば、影響は少なくて済む。その代わり」
青年は口の端をゆがませて笑った。
「人並みの力しか出せない。半分眠ったまま、能力を抑え込んでいる。
だから、人の手で殺すことが出来るのです」
後ろのもう一人を振り返る。
「皆様に剣をお見せしろ」
フードの男が近づくと、香でも隠せぬ生臭いような嫌な臭いが強くなる。
王妃がハンカチを鼻に当てた。
男は腰の剣を抜き、卓に乗せた。
『火の一位』とギリアス、男爵が、興味深々で覗き込む。
装飾も無い、普通の両刃の剣。
だが、乳白色のその刃は、金属の光沢を持っていない。
「『竜の牙』です。
この男こそ、竜を殺せる者。
将軍、男爵、あなた方お二人に、戦士として最大の栄誉である、『竜殺し』の名を差し上げましょう」
ギリアスが口をはさんだ。
「だが、活動期が始まるのだぞ。
竜王の守護がなければ、ロードリアスは活動期を生き延びる事は出来ぬはずだ」
「確かに、竜王の守護は必要です。
竜王の気が、他の魔獣を寄せ付けぬ盾となるのです。
しかし」
青年の笑い顔が深く歪んだ。
「抜け道をお教えしましょう」




