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竜王と黄金のハート  作者: 葉月秋子


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      9 剣の稽古

9 剣の稽古


 思いもかけぬ拾い物があった。

 毒蛇の一件で、竜王はルオーの動体視力がとても良いのに気づいたのだ。

 眼の端をかすめ飛ぶ小鳥の影を、その色と形を正確に見分ける。

 名を教えると、見事に当てる。


 興を覚えた竜王は、軽い木で細身の剣を作って与えてみた。

 少年の小さな手でも握りやすい、極細の柄を削り込んでやる。

 型を教えると、面白いように打ち込んで来る。


 軽い気持ちで始めた剣の稽古に、ルオーは夢中になった。

 元々、素質はあったのだ。

 今までは練習用の重い木剣に振り回され、徒に体力を消耗するだけだった少年は、身体に合った道具を与えられ、見事に開花する。


 しかし、子供に慣れていない竜王と、剣技を知らぬエラでは、その稽古が妙な方向に進んでいくのに気づかない。

 むきになって打ち込むルオーと、生真面目に相手をする竜王。

 人間の動きの限界がわからぬ竜王と、必死でついて行こうとする少年。

 二人の動きが、尋常でない速さになって行くのを。



 数か月後、五歳も年上のダルエス相手に一本取ったルオーに、教師も生徒も、ルオー本人さえ、唖然とする。

 相手が剣を構えるより早く、飛び込んで喉元に剣を突きつけるルオーの動き。

「反則だ!」

 見学ばかりしていた軟弱な皇太子に一本取られ、真っ赤になってダルエスが叫ぶ。

 

 だが、何度やっても結果は同じだった。

 型破りで電光石火のルオーの動きに、誰もついていけない。

 立て続けに三本取られた教師は頭をかかえてしまった。


 竜王が教えたのは、古風だが実践向きの剣の技。

 数十年に渡る平和を享受する現代のロードリアスで、貴族の子弟が学ぶ優美な宮廷用の剣技とは、根本的に違う、生き残るための技なのだ。


 竜王の教える技を矯正する事も出来ず、苛立った教師は、かつてラクロア紛争で多くの実戦を経験した老軍人をルオーにあてがうと、教室から放り出した。

「ほほう、力の無さを見事に速度で補っておられますな。

 じゃが、剣の道には、それは様々なものがありますのじゃ」


 老人は軍人には珍しく柔軟な頭の持ち主であった。

 孫のような少年を相手に、今までに集めて来た南国の軽い曲刀から古代の大刀まで持ち出して来て使って見せ、古傷が痛む時には暖炉の前で、酒を片手に少年にチェスを教え、若かりし頃の戦話をする。

 

 竜王と老軍人の二人が教え込んだ事が、のちにルオーの命を何度も救う事になる。



 しかし、老人は酒の席で知人に自慢する。

 若い皇太子は病弱どころではなく、いずれ国王にふさわしい見事な大器に育つだろうと。

『水の一位』も勉強熱心な生徒を絶賛する。


 姿を見せぬ竜王と皇太子の虚像は、尾ひれをつけて広まっていき・・・。

 ロードリアスの人々は噂する。

『竜王様が皇太子の病を癒し、国王に相応しい教育をしているのだ』と。



 神官が王を兼ねる事が出来るのか。

『黄金のハート』は国王になれるのか。

 前例のない事だけに、様々な論議を呼び、波紋は広がっていった。


 

 



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