7 リンダその2
7 リンダその2
客間で勧められた椅子に座り、リンダは涙と震えを必死で抑えつけた。
女官一人いないのかしら。気がきかない。
召使いらしい娘に、高飛車に命じた。
「もう、大丈夫。熱いハルワを頂戴」
「申し訳ございません、ここには薄荷茶と山羊のミルクとスープしかございません。
ハルワには蔦豆の根を炒ったものが入っておりますので」
山羊のミルクですって?
リンダは身震いした。
「竜王様のワインもありますよ、姉上」
ルオーが気づかわし気に言う。
頭を振ったリンダは、賢明にも宮廷の作法をすべて頭から追い払い、すっと立ち上がると、苦い顔をして立つ竜王の前へ進んで、まだ震えながら深く頭を下げた。
「無断で訪問した事をお許しください、竜王様。
私は兄、ディオルトの弁護に参りました。
兄はルオーの暗殺計画に加担などしてはおりません」
「あの蛇の一件か。
あれは下手人不明で片づいてしまったのではないのか?」
(終わった事と思っておいでなの?)
リンダは驚いて顔を上げ、竜王と眼を合わせそうになってあわてて俯く。
「宮廷内の噂をご存じないのですか?
皇太子暗殺を計画したのはローレル公爵家だと、それも兄、ディオルトが中心人物だと言うのです。
兄は馬鹿ですが、そんな事を考えるような人間ではありません」
ロードリアス国王には十一人の子があった。
前王妃の子、皇太子ルオーがこの時十歳。
現王妃の子、ジェムソン王子六歳。エリアス王子五歳。ウィルミネア王女三才。
現ローレル公爵の妹である側室の子が、ディオルト十七歳。フランツ十六歳、リンダ十四歳。
アトリ侯爵の娘である側室の子が娘ばかり四人。
大貴族ローレル公爵家を後ろ盾とする年頃の二人の貴公子は、派手な散財と放蕩ぶりにもかかわらず国民の人気を集めていた。
「では、誰が、なぜ、ルオー殺そうとする」
竜王が苦々し気に問う。
「弟に王位を継いで欲しくない者。誰だかはわかりませんが」
「でも、僕は『黄金のハート』なのですから、国王になんかなりません、姉上」
リンダは小さく叫んだ。
「そんな事言っちゃダメ、ルオー。
あなたが皇太子だから、ロザモンド王妃とローレル公爵家との平衡が保たれているのよ」
ルオーが死ねば、南の大国ラクロアを後ろ盾とする幼い王子たちと、ロードリアスの大貴族ローレル家の二人の青年が、王位継承権をめぐって激しく争うのは必定だった。
「皆、思ってるわ。あなたが次の王になれば、一番血が流れずに済むって。
竜王様に守られたルオーが王になれば、逆らうものは誰もいなくなるって」
沸き上がる竜王の怒りを感じたルオーは、竜王と同時に口を開いた。
「竜王様は人間の事にかかわったりしません、姉上」
「人間を竜王の飼う羊の群れにしたいのか?」
リンダは赤くなった。
「人間の事は人間で始末しなければいけないんですのね。
でも、ルオーも人間の一人なのです。どうしても、ロードリアスの権力争いに巻き込まれてしまいます」
「ルオーはあと四年の間、ここで私と暮らすのだ。
竜王祭の後、私が竜体になってからは、ルオー自身が決めるだろう。
彼は私に属する者。たとえ国王であろうと、『黄金のハート』に強制することは出来ぬ。
活動期になれば、人間は目覚めた魔獣たちとの戦いに追われる。
仲間同士で争っている暇など、なくなるだろうに」




