4 どんぐり
4 どんぐり
秋の終わり。
勉強が終わり、神殿から帰るルオーの頭に、何かがコン、とぶつかった。
どんぐりだ。けっこう痛い。
歩き出すとまた一つ。
・・・二つ。・・・三つ!?
「痛いじゃないか!誰だっ!」
ルオーは両手で頭を庇って身構えた。
最近はダルエスも手を出さなくなってほっとしていたのに。
あいつら、これほど竜王様の近くで、僕をいじめる勇気があるのか?
しわがれた声が上からふってきた。
「こっち、こっち。俺だ、俺だ」
バサバサと翼を拡げて、大きな烏が枝に舞い降りる。
首をかしげ、口を開いた。
「お前がシルヴァーンが育ててるガキなのか?」
言葉通りに、口の中で尖った黒い舌がちらちら動いている。
これがしゃべっているのだ。
しかし。どう見ても、烏だ。
つやのある黒い羽根に包まれ、悪戯そうな目を輝かせた大きな烏。
鋭い嘴はルオーの目玉くらい簡単に潰せそうだ。
それが、人の言葉をしゃべる。
「僕が竜王様の『黄金のハート』です」
ルオーは答えた。
「へーえ、お前がそうなのか。
驚いたね、こりゃ。
竜王シルヴァーンを目覚めさせたっていうから、どんな凄い奴かと思えば、ひと口で喰っちまえそうなちびじゃないか」
烏なんかが竜王様の名を!
驚きよりも竜王の名を軽々しく口にされた怒りで、ルオーはかっとなった。
だが、はっと気づく。
竜王に教えられていた。
竜王の名を呼べるのは、『黄金のハート』と、同族の竜だけだという事。
この烏が竜?
茂みが揺れ、竜王シルヴァーンの背の高い姿が現れた。
うたた寝をしていた竜王が、ルオーの声を聞きつけたのだ。
「よぉ、シルヴァーン。
最大最強の竜王様が人間の子守りとはなぁ」
竜王は烏を見て、まだ眠そうに乱れた金の髪をかきあげた。
「影か。誰だ?」
烏は馬鹿にしたようにぴょんぴょんと枝で跳ねた。
「ケッケッケ。当ててみな」
竜王様にため口をきく烏に眼を丸くしているルオーの肩を、竜王はかるく叩いた。
「気にするな、ルオー。
これは竜の影だ。
本体の竜はまだどこかの洞窟で眠りについている。
意識だけをこうして形にして飛ばしているのだ」
「あったりまえさ。
活動期前に目覚めるなんて馬鹿がそうそう居るかってんだ。
調子をくずして竜珠を創れなくなったらサイテーじゃんか」
「うるさい奴だ」
竜王は右手をのばし、烏に向かってピン、と指で何かをはじいた。
「ゲッ!」
と声をたてて烏がひっくり返る。足が枝を掴んでいるので、くるりとぶら下がり、白眼を剥いた。
すぐ復活して翼をばたばたさせて体を戻し、大きな口を開けてぎゃあぎゃあ騒ぐ。
「この乱暴者ッ!
せっかく挨拶に来てやったのに、なんてことするんだっ!」
「ただの冷やかしというんだ、お前のは」
竜王はもう一度右手を上げる。
烏が喚いて飛び上がった。
「覚えてろよっ!
すっかり人間に馴染みやがって!
んなもんに肩入れすると碌なことにならねぇぞっ!」
羽ばたき、遠ざかりながら、まだ喚き続けていた。
竜王があくびをして、ルオーに手の中のものを渡す。
どんぐり。
これを指ではじいて烏に当てたんだ。
ルオーはびっくりした。
ルオーはハンカチいっぱい木の実を集めて帰って来た。
(宮殿はおもちゃだらけで、木の実で遊ぶなんて知らなかったのね)
エラは微笑んだ。
暖炉の前で木の実でおはじきをするルオーに声をかける。
「割ってないのを火の中に入れちゃだめですよ、はじけますから」
きょとんとするルオー。
「どんぐりは渋いけれど、芝栗と椎の実は食べられるんです。
この林の木はご先祖様が植えて下さった故郷のものだそうですから、ルオー様が食べても大丈夫ですわ。
後で炒って差し上げましょう」
そうか、これは食べ物にもなるのか。
一つ覚えたルオーは、またおはじきに熱中する。
こんな物がどうやったら烏に命中するんだろう。
小さな指で木の実をはじきながら、ルオーは首をかしげた。




