第二章 1 一年後
第二章
1 一年後
軽い足音をたてて、少年が林のなかの小道を走っていく。
竜王神殿の『水の一位』のもとへ急ぐ、ルオー。
九歳を過ぎた少年は、竜王の言葉通り少しずつ健康を取り戻していった。
長期間摂取していた毒は、成長期の身体に大きな影響を与え、いまだに小さく弱々しい。
だが、きらきらと輝く水色の眼と、軽く日に焼けた肌、真っすぐなプラチナブロンドの髪、そして何よりも身体から発散される生気が、少年を別人のようにいきいきと見せる。
頑張っているのだ。ルオーは。
『黄金のハート』の名にふさわしい者になるために。
『お前が、お前自身であることを望む』と言った竜王の言葉が、少年を解放したのだった。
ロードリアスの王子でも、病弱ななさけない皇太子でもない、ただのルオー自身。
堅苦しい身分制度や、病身の弱さを見せるたびに周囲におこる、怒り、失望、軽蔑。
共感力を持つ少年を押しつぶす、大人たちの押し付け。思い込み。欲望。
全てから解き放たれ、ルオーはただ、竜王の『黄金のハート』であればいいのだった。
幼い心に描いた理想の『黄金のハート』になりたいと、ルオーは自ら動き始めたのだ。
はるかに進んでしまった勉強や、同年代の健康な少年たちの剣の稽古に追いつきたいと、がむしゃらに頑張って熱を出し、何度が寝込んで竜王やエラを心配させた挙げ句、ルオーはなんとか回復期の身体に見合ったゆるやかな学び方が出来るようになった。
助けてくれたのは、竜王神殿の学長、『水の一位』
白髪の穏やかな老人、学びの館の長本人が個人教授をしてくれたおかげで、ルオーは急速に同世代の少年たちの学力に追いつき、追い越していった。
体の方は、そうはいかない。
体力も基礎もない虚弱な少年は、三才も下の子に投げ飛ばされる。子供用の木刀が重すぎて支えられない。
王家の子供用のスパルタ式訓練にはとてもついていけず、学力だけは進んでしまったルオーは、別な意味でも孤立した立場になってしまっていた。
竜王神殿の典礼の長、『風の一位』が大神官としての責務を教える・・・はずだった。
それを竜王が突っぱねてしまう。
「くだらん」のただ一言で。
神殿の真の主の言葉に逆らう事も出来ず、『風の一位』はただ、おろおろするばかり。
平身低頭して、ただ一度と、竜王と『黄金のハート』に神殿にお出ましいただいた。




