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昔からよく夢を見る。


 それらは本の物語よりも面白かったり、美しかったりする。

 だけどその逆もあって――最近はそんな逆の方の夢を見ることが多くなってしまった。

 

――どのような?

 

 自分が疲れているせいなのか。

 はたまた自分が汚れているせいなのか。

 大人になったせいなのか。


 真っ白なまま大人になることはできない。

 真っ白なままでいたいと願う心こそが人を大人にさせるのだ。

 だからそんな理想はあっさり崩れて、なすすべもなく、あらがえず。

 自分は大人になっていく。


 自分はもうすでに汚れてしまっているのかもしれない。

「大人とは何なのか」――いつしかそんなことを一度でも考えてしまった。


――いつから?


それはきっと、純粋な目で世界を見ることができなくなったから。

世界を広いものとして捉えるようになってしまったからだ。


あの頃はもっと、世界は狭いものだと思っていた。

世界の果て、この世の最果て――そんなもの、簡単に向かうことができる、簡単に飛び越えることができる。

古びた虫かご、破れかけた虫網、跳ねた泥で汚れた自転車。

それさえあればどこへでも行ける気がした。

行けると確信していた。


――どうして?


「気がした」なんてことを言ってしまうのは自分が何かを失い、同時に諦観が生まれてしまったからだ。

 ああ、自分はやっぱり、汚れている。


――どこまで?


あの頃はもっと、世界は狭いものだと思っていた。

あの頃はもっと、水晶体に色彩を灯していた。


あの頃はもっと、一本の木の梢の先まで鮮明に写せていたはずなのに――



「おまえは一体何になりたいんだ?」


 いつの日だっただろうか。そんなことを言われた。


「……分かりません」


 自分はそう答えた。嘘はついていなかったと思う。本当に分からなかったのだ。

 誰か、たしか教師だったと思う。教師はそんな自分の返答にイラつきを抑えられなかったのか小さく舌打ちをした。

 そのたった舌をはじいただけの音ほど、おそろしく、そして悲しくなった音はない。

 悲しみはやがて虚しさへと変わる。

 まるで、自分が生きていることを否定されているかのような、そんな行き場のない気分にさえなった。


「すみません……」


 だから、自分は謝った。ただ頭を下げた。


 何にもなりたくなかったわけではなかった。

 なりたいものならあった、あった気がする。

 たしかにあったはずなのに自分はそれを言えなかった。

 なにも言えなかった自分は何を言おうとしたことさえも忘れてしまった。


 そして、その言葉は放たれた。 


「おまえ、生きていて楽しいか?」


 生きているのはただそれだけで楽しい。そう思ってしまっていた自分が恥ずかしくなっていく。

 唇をかみしめ、拳を握りしめても、言葉は出ない。

 それが悔しかった。情けなかった。恥ずかしかった。

 後悔、恥辱、喪失――どんな言葉でそれを表現すればいいのか、それすらも分からない自分。


「俺は――」


 そこで意識は途切れた。

 世界が反転すると同時に聞きなれた音が鼓膜を刺激した。

 それにわずかな苛立ちを覚えつつ、俺は音の発信源へと手を伸ばす。

 自身のスマートフォンに設定されてあるアラームを止めると、気持ちの悪い静寂が俺を包んでいた。

 今日は補習のない日なのに、つまり起きる時間を気にしなくてもいい日なのに間違えてアラームを設定してしまったらしい。

 ため息をつきながら再びベッドに倒れこむ。


「寝た気がしねえ……」


 そう呟き、俺は倦怠感に身を任せ、目を閉じた。


 


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