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「あなた、本当に自分の夢を諦めるの?」


 彼女が通うつもりでいるという芸術大学のオープンキャンパスに付き合わされた帰り道にふと、彼女は俺にそう聞いてきた。


「どうして?」


「ただなんとなく、あなたにもなりたいものがあるんじゃないかって話よ」


「……小説家」


「?」


「それが俺のかつての夢だって話だよ。新子八雲に憧れたんだよ、悪いかよ。てか、今さら言わせんなよ、恥ずかしい」


「恥ずかしくなんかないわ」


 彼女はぴしゃりとそう言った。


「私はあなたの夢が恥ずかしいだなんて思わないわ」


「知っているよ。白河さんはそういうやつだ」


「なら……!」


「だから、白河さんがそう言うなら俺も向き合ってみるよ」


 俺は彼女の目の前で進路希望調査に「小説家」と記入した。そして、そのために必要な実力をつけるために、その学校名を記入した。殴り書きで汚い字だったがそれが俺の第一歩だった。


「あ、そうだ」


 俺がそう言うと彼女は怪訝そうに首を傾げた。


「そのあなたって呼び方、なんか白河さんが言うと見下されているような気分になるからやめてくれる?」


「あら、気づかなかったの? 遅かったわね。ふむ、じゃあ、これからは奏斗君って呼ばせてもらうわ」


「なんでいきなり下の名前なんだよ。そっちがその気ならこちらもゆなって呼ばせてもらうからな。呼び捨てで!」


「別に、奏斗君ならいいわ」


 彼女はそう言ってそのまま少し赤面してそっぽを向いてしまった。それだけで彼女がどういう意図でその言葉を口にしたのか、分かってしまう。こちらまでなんだか気恥ずかしくなったので俺も彼女が向いた方向と逆の方を向いた。



 いつか、これを物語として書き記すこととなった時、自分がどんな人間になっているのかは分からない。しかし、たとえどうなっていたとしても、俺はこれを書きたいと強く思う。

 彼女もそのころにはどんな人間になっていて、どんな絵を描いているのか、分からないに違いない。


 どちらにせよその物語も、その絵も――今はまだ白紙だ。





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