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その日、俺は新幹線の改札口の前にいた。
なぜ、そんなところにいるのかと問われれば、それはまさしく我が後輩の葉渡唯音に会うためである。転校する彼女に一度会わなければいけない、と思ったのだ。このままではまるで喧嘩別れのようになってしまう、それだけはなんだかいけないことのように感じた。
どうやって引越しの日時とその際に新幹線を利用するのかを知ったのかというと、それは本屋を営むあの老紳士に聞いたと白状するしかない。葉渡があの本屋の存在に感動したのはどうやら本当であったようで俺の知らないところで彼女は老紳士に出会っており、その人柄の良さにはまり込んでしまったらしい。引越しのことも全て話したのだそうだ。俺はというとそれこそ朝から東奔西走、やっと彼から情報を得たときには夕方になっていた。彼女の担任の家にまで押し掛けても教えてもらえなかった情報を彼は即答で答えてくれた。彼に感謝するとともに、彼に秘密は言うまいと固く心に誓ったのだった。
「先輩⁉ なんでこんなところにおるんですか⁉」
その口調にはあきらかに関西特有の訛りが混じっていた。どうやらこれが、彼女の言っていた本気の取り乱しというやつであるらしかった。
「引越しをする友達の見送りをしない奴がどこにいる」
俺がそう言うと、彼女は少し泣きそうな顔をした。
「早くいなくなってくれねえかな、とかなんとか言われたのかもしれねえけどそんなの放っておけばいい。結局はお前の友達でなかっただけの話じゃねえか。少なくとも俺は、お前がいなくなるのは寂しいよ、友達だからな」
彼女は俺が一言一言、言葉を並べるたびに少しずつ顔を歪ませていき、最後にはこらえきれなくなったように人目も気にせず声をあげて大泣きしていた。
よっぽど、辛かったんだな――そう思うとこちらまでなんだかもらい泣きしてしまいそうだった。
俺は問う。
「今でも世界は敵ばかりか?」と。
彼女は笑って答えた。
「はい。……でも、先輩のような味方も少なからずいる、そんな世界だと思います」




