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そろそろ、新子八雲という作家についての説明をせねばなるまい。

 四年前、突然、出版業界に姿を現しまたたく間に数ある賞を総なめにし、話題となった。

 その勢いは四年たった今も変わらず、いや、それ以上の勢いで確実に発行部数を伸ばし続ける。

 天才、という言葉はあの人のためにある。

 新進気鋭、という言葉はあの人を指す。

 どこの出版業者もあの人の新作原稿を欲しがる。そのためだったらなんでもする――そんなスタンスをとる必要のある作家というのはそうはいないだろう。

 海外での評判もいい。

 その文章はまるで陶器のように繊細で純粋。しかし、その物語はどれも燃えるようにあつく、そして大胆。なのに、展開は予想できない――つまり、飽きがこないのである。

 どこかの書評家の重鎮のような方がこう語ったという。

『どんな読書嫌いでも奴の作品は読める。もし、読めない人物があらわれたとしたら私はこの仕事を辞める』

 これ以上ないべた褒めである。作風が苦手な人でもなぜか、読めてしまう。理由は分からないがなぜか、そうなのである。

 その作風というのが――意外にもノージャンルというわけではなく、九割九分はファンタジー。こだわり、なのだろうか。理由は明らかにしていない。しかし、凝り固まった、似たような世界観というわけではなく、どれも斬新かつ新鮮。

 ひとつひとつの作品にまったく新しい一つの世界を創造している、と考えていただければその凄さがお分かりになることだと思う。

 俺自身、あの人の作品を読むとおこがましいことながらこう思ってしまう。

 あの人の頭の中を覗いてみたい、と。


 新子八雲の作品は世界レベルに広がってはいるものの、あの人自身の情報は一つとしてない。サイン会すら一度としてひらいていない。なぜか。

 これについては色々な噂が流れている。

『メディア嫌い』

『顔に大きな傷あとがある』

『病院で寝たきりの状態で書いている』

『精神の病におかされている』

 ――どれも確証があるわけではない。噂はあくまで噂でしかないのだ。しかし、噂が真実になることだってある。著名な人ほど、それは顕著にあらわれる――はずなのだ。

 しかし、あの人は色々な意味で違う。

 あの人は性別が不明。

 あの人は年齢が不明。

 あの人は容姿が不明。

 あの人は国籍が不明。

 あの人は所在が不明。

 あの人は学歴が不明。

 不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。不明。

 何もかもが分からないのだ。それはまるで国家機密のように。もしかしたらそんな人物はいないんじゃないのか。そんな存在すら疑ってしまうほどに謎に包まれた人物なのだ。


 しかし、新子八雲はたしかに存在する。

 年に二冊か三冊ほど発表される作品が何よりの証拠だ。

 新子八雲という著者名を目にするたびに、その圧倒的な存在感が俺たちを安心させるのだ。


 先にいっておくべきだったのかもしれない。

 そろそろ、新子八雲という作家についての説明をせねばなるまい。

 しかし、俺は、というよりこの世界の誰もが。

 新子八雲を知らない。




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