《プロローグ》Show・Do
ただの自己満といえば自己満です。
少女は、幼いながらに悟った。自分は異常なのだと。少女の目の前には赤黒い父親だったモノが転がっていた。
「ああ、逃げなきゃ。」
少女は冷静だった。着替えを済ませた少女は荷物をまとめ隣町へのバスに乗り込んだ。
父親を殺したあまりに幼く小さな手は、その感覚だけを覚えていた。
バスが出発して30分ほど経ったのだろうか。少女の体には血の臭いがこびりついていたが、幸いにもバスは空いていた上に後ろの方に人が寄っていて、前列席に座ることで血の臭いを誤魔化すことができた。
「キャーーーーーーッ!」
女性の悲鳴が車内に鳴り響いた。するとすぐに身長185センチほどはありそうな大男が声を荒げる。
「今からお前ら全員皆殺しにする!死にたくねえやつから殺してやる!」
「ギャーーーッ!」
「助けてくれええええ!」
その手に握られていたナイフを見た乗客達はパニックに陥った。だが、少女はただただそれを眺めていた。少女に気付いた大男は告げた。
「…チッ…コレ見て驚かねえのか。相当のバカみてえだな。まあいい、テメェは最後に殺す。文句ねえよな?」
少女はすぐに頷く。父を殺した自分はどうせその罪を一生かけて償わなければならないのだから、今その命が消えたところで少女は何も恐れなかったのだ。
「本当にムカつくガキだ…。」
すると突然、2人の男が運転席近くから突然現れた気がした。しゃがみこんで隠れていたのだろうか。
「あの雑魚を倒せばいいんだろ?」
「そうだ。だが油断して死んだり一般人に危害を加えるような真似だけはするな。戦闘はお前の仕事だ。」
「ああ、わきまえてんよ。」
1人は金髪にピアス。ヤンキーみたいな感じだ。顔は整っていて日本人離れしている。見かけに似合わず穏やかに喋ると感じた。色白で細い。おそらく年齢は17歳くらいだろうか。もう1人の黒いコートを着た男は、黒髪の短髪に褐色肌の筋肉質だが細身の男だ。こちらも種類は違えど男前な印象だ。見た目通りの低音の声だった。
「あん?なんだてめえら。物陰に隠れてやがったのか?わきまえてるとか言ってたなあ…。全然わきまえてねえんだよお前!俺の意思に従わねえ奴から殺すっつってんだよ!」
ナイフの大男はさっきよりも声を荒げる。相当怒っているようだ。
「ああ、そりゃ好都合だ。俺が1番反抗心が強えから俺から殺してくれ。」
余裕の表情の金髪ヤンキー。
「…わかった、まずこの女から殺す。」
「させねえよ」
金髪が消えたと思えば、一瞬でナイフの大男の背後に回っていた。大男ももちろん後列の方にいたのだが、運転席近くから一瞬で後列に移動したのだ。
「貴様ァ!」
大男は背後のヤンキーにナイフを振り下ろした。
「冷静を失った瞬間負けなんだよ。自分より強い敵に対して冷静に戦うのは俺もかなり苦手だけどな。」
「…ッ…。」
大男は全身の力が抜けたように床に崩れ落ちた。気絶したのだろう。
そのとき少女は妙な気分に陥っていた。恐怖なんかではないし、救われた安心感でもない。衝動だった。父を殺めたときとはまた違った、金髪ヤンキーの、未知の強さを持つ人間を“殺したい”という衝動だったのだ。多くのスポーツ選手が思うであろう相手を打ち負かしたいだとか戦いを楽しみたいとか自分を試したいとかそういう感じとは違う、ただ“殺したい”というだけの単純で耐え切れない衝動だった。
気付けば少女は、金髪ヤンキーの首元を、父を殺したのと同じナイフで切り裂いていた。
無垢なるサイコ少女の成長劇となります。きっと。