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序章『浮遊感に包まれて』
弾けた金属音が耳の中で残響し、体は支えを失う。
忙しなく鼓動を刻む心臓が、
全身を激しく駆け巡る血液が、
今か今かと酸素を待ち焦がれる肺が、
この時――この一瞬だけ、全ての活動が止まった。
「――ぁ」
口から漏れた言葉はその一言のみ。唐突な出来事に思考は追い付かない。
何が起きたのか。それを理解した時にはもう遅い。抵抗することは許されなかった。
地球上のあらゆる物質に課せられた、重力と言う名のしがらみ。当然ながら、宙に浮いた体がその例外となることはあり得ない。
無意識に広げた両腕は何を掠めるでもなく、増すばかりの浮遊感に身を支配される。見えない手で体内を掻き混ぜられるような不快感に、込み上げる吐き気。全身の筋肉は緊張に固まる。
これから起こる事態に恐怖は感じていない……と言えば嘘になる。
しかし、泣き叫び、喚き散らす気にもならない。残された時間が少ないせいでもあるだろうが、何より――過程は違えど結果は同じだからだ。
少し早くなっただけ……そう心の中で言い聞かせ、女々しく抱いた未練を断つ。
――でも……それでも……
「クソった――」




