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おいでよ冒険者村!

作者: 狐付き

 関東某所


 冒険者に憧れる日本人のための施設が遂にオープンした。


 わかりやすく言うと、日光江戸村や太秦映画村のような施設。だがここは和ではなく、どちらかといえば洋。

 土壁や石壁でできた2階建ての建築、村の中央広場の横に建つ冒険者ギルドホール。マンガやアニメのファンタジーものでよくありそうな風景である。


 商業施設も充実しており、地元野菜の直売所に屋台、おみやげ屋など世界観を損なわないように設置されている。 

 食事処としてはギルドの受付カウンターの横が酒場になっており、冒険を終えた人々が一杯ひっかけているという設定で飲食できる。

 料理も骨付き肉などワイルドなものが多く、手づかみで食いちぎるというはしたない行為だろうと誰もおとがめない。なにせ冒険者なのだから。



「我が名はあゆみん! 炸薬魔法を極めしもの!」


 広場に少女の声が響き渡る。


 彼女は人気ライトノベル『殺す場らしい世界で四苦八苦を』のメインヒロイン、あゆみんだ。

 タイアップによりキャラクターを借り受け、演じてもらっている。日給2万5000円也。公式認定を受けており、決して某国のように無断で使っているパチモノではない。


 他には大型キャリーケースも収納できるロッカー完備の巨大更衣室もあり、コスプレイヤーも満足できるようになっている。

 前評判が高すぎ、プレオープンのチケットは販売直後、サーバーがダウンしたほどだ。

 

 あまりの人気に冒険者村というコンセプトから逸脱しそうになり、オープンから日別限定チケット制にせざるをえなかった。

 毎日が満員御礼。やってよかった。社長は満足そうに頷いた。




「……しっかし客来ないなぁ……」

「オープンしてから1か月目まではよかったんすけどねぇ」


 今では閑古鳥が鳴いている始末。

 オープン当初は物珍しさもあり、たくさんの人がやってきた。

 特にコスプレイヤーが多く、ブログや追ったーでもトレンド1位を記録したほどだ。

 半袖で首元に謎の紐が×の字に通してある村人シャツも飛ぶように売れた。


 これはいける。そう確信していたのに、たった一月で客足が遠のいた。

 今日の来場者数17人。このままでは廃村になってしまう。


「今日も撮影のコスプレイヤーだけっぽいっすねぇ」

「彼らは撮影済ませたらさっさと帰ってしまうからあまり儲けにならないよなぁ。来てくれるだけありがたいけど……」


 できれば子連れに来てもらいたかったのだが、都心から遠いうえ酒類を扱っている都合上、駐車場が無いせいで最寄駅からのバスでしか来れない。長距離移動を嫌う子供には辛いようだ。完全に失敗である。


「アトラクションも少ないっすからねぇ」


 現在あるアトラクションといえば、盗賊ギルドにある怪我に気を使ったトラップ部屋や、でん○ろう先生の科学教室のような魔術ギルド、スポーツチャンバラが楽しめる剣士ギルド。あとは冒険者ギルドで初級冒険者用クエストの薬草採取────という名の、裏山での山菜採り。

 あとは突然村中で始まる殺陣、中央広場でのあゆみんショー程度だ。


「あゆみん、かわいいんだけどなぁ」

「炸薬魔法使わないっすからねぇ……」


 代名詞とも言える炸薬魔法。本来であれば少し離れた山で大爆発を起こすはずだったのだが、今は法が厳しく大したものができない。

 実績のある戦隊シリーズでさえ爆発は規制されているのだ。昨日今日始めたような企業にOKを出すはずがなかった。

 だからといって規制ギリギリのしょぼい爆発ではファンが納得しない。それだったらやらないほうがマシというものだ。

 つまりアイデンティティを失ったあゆみんでは魅力が足りなすぎるのだ。


「ちょっと見切り発車だったかな」

「せめてダンジョンが完成してからのほうがよかったすね」


 廃坑を拡張したうえコンクリートで強度を上げ、専門家に安全確認までしてもらったこの村の目玉だ。

 大地震が起きても落盤どころか、シェルターとして利用できるほどのものに仕上がる予定。


 ただしあまりにも頑張りすぎてオープン過ぎてもまだ完成していない。

 本来であればプレオープンに間に合っていたはずだった。だからといって出来損ないや手抜きなど、客にすぐバレてしまう。長く続けるつもりならそういったところも妥協してはいけない。



「村にモンスターの群れが襲ってくるってのはどうかな。新しく施設を作る時間が不要だし」

「そんだけエキストラ呼ぶ金、どこにあんすか」


「いや、まだ金はある」

「でもそれで失敗したら予算を無駄に減らしただけになるんすよ」


 モンスターエキストラ、1人日給1万円前後。村を襲ってくるのだから、20人くらいは欲しい。

 そして特殊メイクやら衣装も安くはない。


 客が落とす金額は平均5000円。客が40人でやっとエキストラに払える程度になる。

 しかしそうするとあゆみんに払う金も、スタッフの給料も無い。ましてや維持費などにも金が回らない。

 オープン直後の客が多いときならともかく、今やっても厳しくなるだけである。


「土日だけとはいえあゆみん、高すぎないっすか?」

「馬鹿野郎。生の15歳雇うの大変なんだぞ」


 15歳を働かせるのは大変なのだ。

 なにせ普通の労働としては色々とまずい。ではどうするかといえば、子供でも働いているところから拝借すればいいのだ。

 それは芸能事務所。あゆみんは無名の子役である。

 そして今、彼女はあゆみん役を演じるという芸能らしい仕事を行っているのだ。つまりぎりぎりセーフと言える。

 ちなみに事務所を仲介しているためあゆみん本人に入る金額は5000円。これでももらえるだけマシなのかもしれない。


「普通に20歳くらいでいいんじゃないっすか?」

「ふざけるな。20歳の子を雇ってババア呼ばわりされてみろ! かわいそうじゃないか! それにファンが納得しない!」


 社長は妥協をしない男である。

 心無いファンは、そのキャラクターより少しでも年上だとババアがやるななどと悪態をつく。それでもがんばって笑顔で対応するスタッフの姿を想像するだけで涙が出てくるほど社長は人情家でもある。

 だからここは引けないのだ。



「だけどなんつーか……もっとドラクイ世代とか来てもいいと思うんだよなぁ」

「もう少し最近だとフェアリー亭'sとかっすかね」


 今の日本における剣と魔法のファンタジーの基盤といえば、ドラクイにロードスター戦記。両方が発表されて30年は経つ。

 だがあの当時少年だった彼らはもう40代。子供もそれなりの歳になっており、一緒に来るということも難しかろう。



「あと我々にできることといえばなんだろうか」

「こういうときは若い子の意見を取り入れるのも手っすね。あゆみんに聞いてみるっすよ」

「そうだな。今休憩中だろうから聞いてみよう」



「塔、塔が足りないと思うの」

「「それだ!」」


 中級冒険者向けのダンジョンのオープンの目途は立っていたが、上級者向けは未だ悩んでいた。若い思考は素晴らしい。グッジョブあゆみん。

 塔はロマンだ。高いだけで心躍る。見上げるのもいいし、上から見下ろすのもいい。そしてそれ自体がシンボルとなる。



 早速塔を建てる場所の選定、地盤調査、建設費用を調べる。


 各フロア、最低でも100坪は欲しい。

 鉄筋構造で、1坪辺り50万から。

 だがやはり鉄骨が欲しいし耐震構造も考慮せねばならない。

 それに塔というのだから、最低5階以上あってほしい。更には移動に不自由な方々にも楽しんでもらえるよう、中心にエレベーターが必要になる。予算がやばい。


 それでもなんとか都合をつけることに成功。しかしもう瀬戸際である。



「完成までどうしましょうかねぇ」

「タイアップしまくって繋げるのも手だな」


「バーロー道のアイーン様とか?」

「そりゃダンジョンができてからだな。紐の女神は?」

「それこそ塔ができてからっすよ」


 なんてことだ、村生活が主な作品がほとんどないではないか。



 オープンわずか1か月で閉園の危機を迎えた彼らに救世主が訪れたのは、それから少し経ったころであった。

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