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プロローグ ある嘘つき少年の話

公募投稿予定作のため一時非公開にさせていただく場合があります。

プロローグ ある嘘つき少年の話



 世界は嘘で再構成されいく。



 子供の頃の話だ。


「せんせー! いっくんがまた嘘ついてるー!」

「そうだよ! 昨日あめだったのに遠足あるわけないじゃん!」

「・・・・・・行ったのに」


 昨日は確かにみんなで遠足に行ったはずなのに、誰も同意なんてしてくれなかった。

 別に遠足に限った話じゃない。「また」という言葉が示すように、俺は度々嘘つき呼ばわりされていた。

 こういうことはよくあった。旅行での思い出話は家族と食い違うし、買った覚えのないゲームが出てきたりもした。

 けれど別に俺は病気を患っていたわけではないし、先天性の障害があったわけでもない。

 ただ、俺の周りの世界は度々書き換えられていた。


 些細なことはあっという間に気にならなくなった。そして、それを感じ取っているのは自分だけだと気がつくのにそんなに時間は必要ではなかった。

 大人相手ならまだ良かった。子供が興味を引きたくて嘘をついていると勝手に思ってくれていた。

 しかし同じ子供相手だと自分の記憶を主張すればするほど、俺はみんなに「嘘つき」だと言われるようになった。

 世界が書き換えられる度に、俺は意図せず嘘つきになっていた。そのうち、他人にとって違和感の無いように暮らすために、自分から「嘘」をつくようになった。

 目立たず生きることも覚えた。自分自身が目立たなければ、嘘も違和感も目立たない。


 事の始まりはいつだっただろう。気がついたときにはそういういことが起こり始め、最初は不思議で仕方がなかったが、子供ゆえの適応能力の高さからなのか、まだ世界に対する理解が形成されていなかったからなのか、とにかく俺はこういうことが繰り返されるうちに、そういうものなのだ、と受け入れていった。

 そうして俺は、本当の「嘘つき」になった。

 だから幼い頃の記憶はとても曖昧だ。自分の元々持っていた記憶なのか、「嘘」をついて自分の中に無理矢理に刷り込んだ記憶なのか。それとも、それらは全部ひっくるめて「嘘」なのか。


 そんなことを繰り返していたからなのか、記憶が欠けている部分もかなりあるように思う。子供の頃のことだから、もしかしたらそれは自然の範囲内なのかもしれないけれど、俺の場合は子供の頃の友達もよく覚えていない。

 ただ、「また嘘ついてる!」という言葉は何度も言われたのでそこだけは覚えている。誰が言っていたかは分からないが。

 けれどおぼろげながら、そんな自分と一緒に遊んでいてくれた子がいた。幼稚園だったか、小学校低学年の頃だったか。二人でよく公園の裏道を通って遊んでいた。

 多分それは幼なじみだったように思う。わざわざそんな友達のいない時代のことを思い出したくもないので本人に確かめたことはないが。

 だけどひとつだけ確かに覚えている。


「ーー約束だよ?」


 そう言っていた。今となっては何を約束したのかは分からない。

 それでも、そのもう記憶にすらない約束を、俺はまだ頑なに守っているような気がする。

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