第25章「歓喜の咆吼」
私が閉じ込められていた部屋は二重扉になっていた。
地下室。分厚い二重扉。エアダクトで管理された空調。ほぼ、完璧な防音室。ここがお爺さんの別荘なら、私の声は誰にも聞こえないし、内側にいた私には外の声も聞こえなかっただろう。
内側の扉には鍵がかかってなかった。外側の扉には鍵がかかっていた。さっちゃんの持っていた鍵で容易に開いた。
嘘つきめ。
私は心の中で悪態をつく。
鍵は開いた。けれども、扉は慎重に開く。さっちゃんの事だから扉が開いたら動くタイプの罠があると思った。だけど予想に反して罠は無かった。
さすがに杞憂だったと笑う。
一歩一歩罠がないか確かめながら歩く。すたすた歩きたくても、足が痛くて歩けないけれど…。
痛みに耐えて、這いずる様に廊下に出ると、廊下にはレコードやCDが散乱していた。
廊下の壁に掛かっている絵には見覚えがある。さっちゃんが子供の頃描いた絵だ。
間違いない。あの別荘だ。
耳が遠くなって医者を廃業したさっちゃんのお爺さんが趣味だったクラシックを大音量で聴くためだけに山中に建てた別荘だった。私達はお爺さんが生きているときに何回か泊まったことがある。
チャイコフスキーのくるみ割り人形。見覚えのあるレコード。
ホーン型スピーカー。良く覚えている。お爺さんは音楽は耳だけではなく、身体でも聞くものだと言っていた。確かに素晴らしい音がしていた。
そしてその向こうに、さっちゃんのご両親の死体が転がっていた。
私はおそるおそる近づく。
さっちゃんの仕業以外にはあり得ない。事件を起こすのにご両親が邪魔だったのだろう。さっちゃんの狂気に私は恐怖して、震える。
ご両親は二人とも、口から泡を吐いていた。毒を盛られたのだろうか。
二人に手を合わせようとして、ふとさっちゃんのお母さんの指が切り落とされている事に気がつく。
恐怖と歓喜が入り交じり、思わず私は獣の様に呻いた。そして叫んだ。
友恵は無事だ!




