第22章「大きくて刃の厚いナイフ」
頭痛と発熱のせいで身体が重かった。
肌がひりひりとした。
私は自分が全てをはき出した事を思い出して飛び起きる。
「起きた?その様子だと自分のしたこと覚えてるよね?」
言い訳が出来ない。さっちゃんは一部始終を見ていた。全身が震える。友恵は足の指を切り落とされる。
「だらしないわね…。友恵ちゃんはあなたの耳を嬉しそうに食べたわよ?」
さっちゃんは私が吐き戻した友恵だった物をこれ見よがしに踏みにじった。
「もういい加減にわかったでしょ?私はあなたに許されない事をしたの。あなたに許してほしいの。だから早く私を殺して…」
意味がわからなかった。震えが止まらない。私の耳を友恵に食べさせたの?
「ダメなら良いわ。殺してくれるまで、友恵ちゃんを細切れにしていくだけよ。それも全部食べて貰うわよ。私はあなたに許してほしいの。だから、あなただけ生きていればそれでいいの。」
さっちゃんは私の前に座って私の顔を持ち上げた。
お互いの顔の位置が近い。
息が荒い。目も血走っている。息苦しくなったのかシャツの前ボタンを外す。はだけたシャツの胸元にペンダントのように掛けられた何かの鍵。
「わかるでしょ?友恵ちゃんは別に重要じゃないのよ。私は、あなただけ生きていればそれでいいの。もちろん、友恵ちゃんがすぐに死なないように努力はするわ?だから、次は足の指。その次は耳。その次は目。その次は鼻…。胸を片方ずつ切り落としてきても良いわね?」
私の顔を持ったまま立ち上がって、無理矢理私を部屋の奥の方に向ける。
「もし途中で友恵ちゃんが死んだら、ここで解体してあげる。」
そう言ってさっちゃんは私の後ろに回って部屋の隅を指さす。
「切り落とした頭はあそこに置くわ。右腕と左腕は並べて…、その横は胴体を置く。胴体も内臓はいくつかに分けてバケツに入れて、あばらは一本ずつ分けるよりも、繋がったまま背骨から離す方が良いかしら?綺麗に並べてあげるわ。」
指さした方向を少しずらしながら説明する。想像したくなかったけど、どうしても、想像してしまって私は震え上がる。一通り自分の計画を説明した後、乱暴に床に私を投げ捨てた。私は床でまるで胎児の様に縮こまって震えながら泣いた。
こんな状況で、私に何が出来る?
私はつい昨日まで、自分がやりたい事や夢なんてなくて、漠然と大学に行って、就職して、結婚して、幸せな結婚をしたい程度の漠然とした目的しか持っていなかったただの高校生だ。突然、こんな狂った環境に放り込まれて一体何が出来る?ただただ、震えながら許してと連呼する事以外何が出来る?
不意に脇に冷たいものが当たる感触。ビクッとする間もなく、心臓と筋肉がが縮こまる感覚。息が止まる。そして一瞬だけ、その感覚が緩んだと思ったら、もう一度縮こまる感覚。骨振動で伝わるパチパチという音。
「ちゃんと聞け!」
スタンガンだ。床に這いつくばって、のたうち回る。脳が本能として、心臓が上手く動いていない事を知らせる。咳き込み、吐き戻す。少し胃液が出たが、筋肉の痙攣は治まらない。遅れてから脇に火傷の痛み。
すぐ近くでスタンガンが作動する音。
反射的に身体が部屋の奥に逃げようとして、身体が動かなくてつんのめって転ぶ。ほふく前進をする様に部屋の隅まで逃げて縮こまる。
さっちゃんはスタンガンで威嚇する様にパチパチパチパチと断続的にスイッチを入れながら私を追い詰める。
「あの子が死んだら会わせてあげる。でも、生きているうちは声も聞かせてあげない。もしかしたら友恵ちゃん以外の誰かかもしれないわよ?そうかもしれないわよ?そうだったらいいのにね?」
さっちゃんは微笑みながら言った。
「でも、その誰かが死んでも、同じようにここで解体してあげる。そうね?今度は無関係な人が良いわね?無関係な小さな女の子。もしそうなったら、あなたのせいよ。」
泣きすがって許しを請う私をあざ笑いながら、私の目の前に手を差し出した。何かを握りしてめいる。大きな刃の厚いナイフだ。
「これは本物よ?わかるわね?」
握りしめたさっちゃんの手から少しずつ血がにじんで、刃先に垂れて地面に落ちた。




