第21章「回想」
高校三年生になってすぐの事。
早生まれのさっちゃんは、18歳になってすぐ免許を取った。
私達の学校は進学校だから卒業するまで免許を取るのは禁止されていたけれども、ばれなければ問題ないんだといって、春休みの内に合宿免許で免許を取っていた。
さっちゃんの家はお医者様の家系で、少し前になくなったお爺さんも、お父さんも車好きだったから、免許取得代も車も用意してくれていた。
もちろん、それはさっちゃんの生活態度も勉強面も優秀だったから許された訳でさっちゃんがただ甘やかされていたわけじゃない。それまでの努力と信頼の証だった。
車はさっちゃんのお爺さんの遺品。イタリアの小さくて可愛い実用車。お爺さんさっちゃんの為に遺しておいてくれたそうだ。
最初に乗る車は小さくて燃費が良くて、ちゃんと機械の意味が分かる車が良いと気を遣ってくれたそうだ。私はそれは男の子に対してする気遣いであって、孫娘にそんな気を遣うくらいなら、新しくて故障しない方が良いと思ったけど、さっちゃんは素直に、本当に喜んでいた。
私とさっちゃん。何回か、友恵も。
みんなでおこづかいを出し合って休みの日によくドライブに出かけた。海に行ったり、山に行ったり…。とにかく楽しかった。
小さくて、少し古い車。
雨の日には雨漏りがしたけど、初めて見る風景はとても楽しかった。
あぁ、そうか…。
今私が監禁されているこの建物は、さっちゃんのお爺さんが山の中に老後の余暇を過ごすために建てた別荘だ。子供の頃からさっちゃんに誘われて、何回か遊びに来た事がある。
粋人で孤独を愛したお爺さんは、クラシックを大音量で聞きたくて、地下室をメインに考えて別荘を建てたそうだ。
お婆さんに先立たれて、仕事もリタイアして、一人でのんびりと四季の移り変わりを楽しんでたそうだ。
最後にこの別荘に来たのはさっちゃんが免許を取って初めてのドライブの時。お爺さんの遺品の車で、お爺さんの別荘に泊まる。ちょっとした供養だと言ってさっちゃんに誘われたのだ。
あの日はとても楽しかった。初めて友達の車に乗せてもらって、初めてお酒を飲んで、二人でいろんな事をおしゃべりした。
私とさっちゃん、それに友恵…。
どうしてこんなことになったんだろう…




