第16章「この嘘つき!」
「いやよ。」
さっちゃんの表情が憎悪にゆがむ。当然、無下に私の要求を却下した。
「さっちゃん!友恵にあわせて!!」
間髪を入れずに怒りを込めて叫ぶ。私はさっちゃんの肩がびくっとしたのを見逃さない。
絶対的な立場の人間は驚かない。冷笑するのみだ。
「フェアじゃないわ!友恵が無事だと証明して!」
「私に命令できる立場だと思ってるの!?」
はじめてさっちゃんが感情的になった。確信する。友恵はここにいない。
「そんなの関係ない!友恵が心配なの!友恵が無事じゃなきゃ、さっちゃんのお願いを聞く意味がないじゃない!」
「うるさい!黙れ!!」
平手で顔を叩かれる。切り取られた耳に当たり悲鳴を上げたけど、すぐに歯を食いしばって耐える。
「ごっ、ごめんなさい。そんなつもりじゃ…。」
さっちゃんが狼狽えている。
「あなたこそ黙りなさい!」
出来る限り理性的な声でさっちゃんの気勢を削ぐ。
さっちゃんが黙る。
飲み込んだ!
たとえ一時的でも、イニシアチブを私が握った。
「ホントは友恵はここにいないんでしょ?こんな状況で、しかも、さっちゃん一人で!もう一人余計に誘拐できるとは思えないわ!」
さっちゃんの青ざめた顔が私を加速させる。
「さっきの髪の毛や眼鏡だっていくらでも代わりがあるはずよ…。ここに友恵はいないわ。この嘘つき!!」
形勢逆転で私は昂ぶる。このまま手玉にとってやる。さっちゃんの思い通りになんてさせるものか。
私はさっちゃんをにらみつける。
さっちゃんは私から目をそらして、部屋を出て行く。彼女の泣き顔が私に勝利の優越感と希望を与えた。




