第11章「慟哭」
乾いた破裂音。激痛。
私は確かに引き金を引いた。
耳鳴り。こめかみの痛み。
時間がゆっくりと流れる感覚がする。すこく遅れて床に何かが落ちた乾いた音。視界の端が火花で白くかすれる。
私は死んだ…はずだった。
こめかみが痛い。ドクドクと心臓の高鳴りを感じる。息も荒い。硬直して身体が震え始める。
震える手で拳銃を太ももに置いて、息を整えようとしても上手く息が出来ない。少し吐く。
さっちゃんが大笑いしている。何がなんだかわからない。
「本物の拳銃を私が持ってるわけ無いじゃない?」
そういってさっちゃんは私の手から拳銃を取り上げた。
「ちょっと、汚さないでよ。ゲロまみれになったじゃない。これって高かったのよ。」
さっちゃんはポケットからハンカチを取り出して拳銃についた私の吐瀉物を拭いた。
「良くできてるよね。最近のモデルガンって」
体中震えて、力が入らない。
さっちゃんはクスクスと笑いなが私の腕をひねって、また椅子にしばりつけた。
「やっぱり良い子ね。あなたって。このくらいじゃ、私を殺してくれないって思ってたわ。」
こめかみを優しくさする。
「火薬で少し火傷したみたい。ごめんね。驚いた?」
さっちゃんは優しく私の頭を抱いて撫でた。
これからどんなひどい事をされるのだろうと思う。もう、何も考える事が出来なくて、どうでも良くなってきた。
「それでねぇ。友恵ちゃんのこと何だけど…、あの子ってやっぱり可愛いよね。他人の私でもそう感じるんだもの、姉妹ならなおさらそうでしょうね?」
予想外の言葉に背中が凍り付く。
「あんな可愛い妹が私もほしかったわ。」
友恵。私の妹の名前。
「さっちゃん…。冗談は止めて!」
震えて歯がカチカチと鳴る。平手打ち。何回目だろうか?
「私、裏切られて怒ってるのよ。分かるでしょ?だから、ペナルティよ。」
たくさんの言い訳が頭に浮かぶ。でも、言葉に出来ない。
「かわいそうにね。アナタのせいよ。」
さっちゃんの背中を見ながら、泣いた。
あぁ、こういうのを慟哭って言うんだなって、泣きながら冷静な私がそう思った。




