第10章「ずっと一緒にいた」
さっちゃんは慣れた手つきで、持ち手とから何かを抜き出した。
「ほら。ちゃんと弾が入ってるでしょ?」
確認させる様に、抜き出した鉄のヨウカンみたいな何かを私に見せる。そんな風に見せられても、判断はつかない。だけど、弾はちゃんと入っているらしい事は理解できた。
またも慣れた手つきで持ち手を握りしめてから、上の方をスライドさせる。
「これで撃つ準備は終了。後は私に向けて引き金を引いたらお終い。簡単でしょ?」
私はさっちゃんから拳銃を受け取った。重い。
朝、家を出る時にはこんなことになるなんて思いもしなかった。
私達は、友達同士だった。小学校も、中学校も、高校も。ずっと一緒にいた。ずっと一緒にいたのに、さっちゃんの変化に気が付かなかった。
さっちゃんが、何に悩み、苦しんだのか。
さっちゃんが、私に何をしたのかすら私には分からない。
さっちゃんが、自ら死を望み、何故、私に殺されたいと願ったのか…。分からない。
何も分からない。
悪いのはきっと、さっちゃんの苦しみに気が付かなかった私だ。
だから、さっちゃんを撃つことなんて出来ない。
覚悟を決めて、私は自分のこめかみに銃を押しつけた。
「やっぱり、無理だよ。さっちゃん…。ごめん。」
さっちゃんを見る。さっちゃんは動かない。
「さっちゃんは私のせいで、すごく苦しんだんだよね?ごめん、私。全然…、気が付かなかった。」
さっちゃんに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。私の無邪気がさっちゃんをこんなにも追いつめたんだ。
「ごめんね。私…。さっちゃんを殺す事なんて出来ないから、先に行って待ってるね」
精一杯の笑顔を作って、私は引き金を引いた。




