第1話「私を殺して?」
よく晴れた午後。
学校が終わって私は親友のさっちゃんの家に遊びに来ていた。私はベッドの上に腰掛けて、さっちゃんは勉強机の椅子に座って他愛のないことを話して…。
いつもと変わらない放課後。ゆっくりとした時間。
突然、さっちゃんは私の横に並んで腰掛けて、満面の笑みで明るく言った。
「私はあなたに許されないようなことをしたの。だから、私を殺して?」
急のことで何を言ったか分からなかったし、多分、私はキツネにつままれた様な顔をしていただろう。
それが何かはわからない。
当然、私は嫌だといった。
「冗談でも言って良いことと、悪いことがあると思うよ?」
「あはは、やっぱり。そう?」
さっちゃんが私に腰に手を回してすり寄ってきた。
元々さっちゃんは抱きつき魔でスキンシップが激しいタイプだけど、今日は何だか様子がおかしい。
「どうしたの?なんか嫌なことでもあったの?」
「ごめんね。驚かしちゃって。やっぱり嫌よね?」
私の肩にさっちゃんは腕を回して、身体をよせる。何だか雰囲気がおかしいというか、艶めかしい。
瞬間、身体がこわばる。何かがおかしい。いつもと違う。
さっちゃんの顔が焦点も合わないくらいに近づいている。逃げようとしても、身体が動かない。
心は全力で逃げなきゃと思うけど、力が入らないというか、拒否できない。
さっちゃんはそのまま私に体重をかけてベッドに押し倒す。なすすべもなく私達はベッドに倒れ込む。
「さっちゃん…さん?」
「大丈夫だから、力を抜いて?」
そう言いながらさっちゃんは私の背中に手を回して、肩をつかんで覆い被さった。
私は混乱している。
抵抗できないのは恐怖からか、それとも受け入れてしまっているのか。なんにせよ、このままではさっちゃんと私はこれまでの普通の友達同士という関係を維持できなくなってしまう。
そんな私をよそにさっちゃんは私を強く抱きしめ足を絡め始めた。
逃げられない。
さっちゃんの息づかいが荒い。
ふと右の脇腹に堅い何かが当たる。その瞬間。
脇腹の筋肉が自分の意志とは関係なしに、急激に収縮したのを感じた。
破裂音とともに心臓を握られた様な感覚。
息が止まり、脇腹の筋肉が痙攣する。
一瞬なのか数秒なのか、すぐに私の身体は苦痛から解放される。でも、身体がこわばって上手く動かない。
うめき声を上げる暇も無く、顔に枕が押しつけられる。枕越しに重い何かがのしかかる。根拠はないが、私はさっちゃんが枕越しに馬乗りになっている状況を頭に浮かべる。
枕の中でくぐもった私のうめき声
腹に同じ衝撃。
パニック。
次に左の脇。下腹部。足の付け根に長い衝撃。
顔から圧力がなくなった瞬間、咳き込んで布団に吐き戻す。
アゴから頰を握られて口が閉じられない。
「ごめん。でもね、アナタに許してほしいの。」
そう言ってさっちゃんはこれ見よがしに何かの機械を見せつける。パチパチと連続する破裂音と電流。スタンガン。
口の中にそれを押し込む。
「許してもらえるのなら、何でもする。だから…。」
破裂音。鼓膜からキーンという高周波音。視界が白くなり、火花がいくつも散った。
体中がしびれて動かない。目も見えない。耳も耳鳴りがひどくてほとんど聞こえない。それでも、ドラマの様に気絶出来なかった。
さっちゃんは私に何かを飲ませてから、口にタオルを詰め込み、ガムテープで閉じた。
吐瀉物が残る布団で私を簀巻きにされた。
まるで荷物の様に手押し車に乗せてガレージまで連れて行かれた。
コンパクトカーのハッチバックを開いて、手押し車を横付けする。
上半身をバンパーにもたれさせて少しずつ持ち上げながら、私はトランクに入れられた。
少し回復した視界でハッチバックを閉めるさっちゃんを見た。
暗闇になると、急速に睡魔に襲われてしまって、その後は覚えていない。
気がつくと私は椅子に縛り付けられていた。