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黄昏の使者  作者: ねじり
2/2

異邦人(夢は覚めず)

主人公と騎士と魔女 

王子のような彼は俺なんかに気を使ってくれているようだ。


「大丈夫かい、なにやら具合が悪そうだが。助けてもらった僕がこんなことを言うのはおかしいが、もう少し横になってはどうかな?」


イケメンは性格もイケメンだ、眩しすぎる。

というか俺は何なんだ、このよく出来た世界はなんだ、ドッキリか?

ドッキリされることも思いつかないが、あ、吐きそう。


どんどん顔色を悪くする俺に、アンジェはますます気をかける。

申し訳なさで俺はまた顔色が悪くなる。


空を裂くような声がしたのはその瞬間だ。


「やあ、これは害虫かな。私の別荘に不法侵入かな?人間」


ただ一つの通路の先に立つのは赤毛のツインテールをした女だった。

肩までの赤いペンキを流したような髪と、琥珀のような瞳。

女性とも、少女ともわからない、ただ美しい端正な顔立ちをしている。

そしてなかなかのナイスバディだ。コスプレイヤーみたいな格好と見た目だが違和感が何も無いのが違和感である。美女である彼女の前に、他の全ては意味がないのかもしれない。

だが、言葉は聞き捨てられない。今この女性は俺らを不法侵入といっただろうか?


「私の別荘に許可無く汚物が湧いているのだから、それ相応の用向きであろうね」


なにやら、なにやら不穏な言葉である。訳が分からないが、何か言い訳をしなくては


「も、申し訳ありませんが、何のことだか、俺は気付いたらここにいたんです」


目の前の彼女は不思議そうに俺に目を向けた。

何か驚くように。


「やあ、2人いたのか。して、気づいたらここに?ここは私の別荘だぞ、気づいたらなど……ああ、君……君、興味深いな。なんだそのオーラは。はは、君は世界の割れ目を超えてここにいるのか?その見た目で?面白いな」


言われた言葉は頭に追いつかない。

彼女は、いま俺に、世界の割れ目と言った気がする。


「ほう、なにやら受け止められてないのかな。真実が見えてないみただね。安心しなよ、ちゃんとおかしな事態なのは間違いないさ。君は君の世界と異なる世界にいる、つまり異邦人さ」


彼女は美しく赤い唇を弧に描く。

俺は彼女の言葉の意味が受け止められない。


「か、彼は、異世界から来たというのか、こんな幼いのに!」


アンジェ、そうか、俺子供だもんね。

見た目だけ。

彼女はゆっくりとこちらへ向かって歩いてきた。


「幼い、これが?これは幼くしたんだろう。成長を恐れたんだ。これの時間は既にお前を超えているさ。わからないのかな、人間。ん?いや、お前何か薄いな。しかもその赤目、なんだろうね、見たことがない。ふふ、赤目、君もまたおかしな存在だな」


アンジェは赤目というもの言いに動揺したようだった。

よくわからないがひどい言葉なのかもしれない。なんか身体的な障害とかなのだろうか。まあなんにせよ自分の特徴を初対面の人にあだ名みたいに呼ばれたら嫌だろう。

まあ、ここは異世界らしいし、俺とは感性違うかもしれないけど。

てゆーか異世界て、はは、あり得ないし、夢だな。長い夢だ、それしかない。


アンジェを見ると、赤目を気にしたのか、顔を深く下げている。

かわいそうに。


「なあ、よくわからないけど、赤目なんて気にしなくていいと思う。瞳なんて関係なく君はいい奴だし、だいたい綺麗な色の瞳だ」


つい、年上のような物言いをして、後悔する。

なにを調子にのった発言を俺はするんだろうか。

まるで彼を知ったかのようなもの言いは不快なだけだろう。

一晩過ごしただけの癖して、俺はどこまでも調子に乗る男だ。


「あ、あの、すみませ「ありがとう、気を使わせたみたいだ。いや僕が年下なんだろうか、失礼を致しました」


そう言って、彼は頭をさげた。

対する俺はびっくりである。


「や、いや、そんな、年上かはわからないし!」


つい訳の分からないことを言ってしまう。

俺の口は焦ると正当を否定するような意味不明な言葉しか発しないのだ。

ああ、また変なこと言ってしまった、とヘコむ俺にイケメンは微笑む。


「いや、世界の魔女が言うのです。その通りでしょう」


ニューワードだ。

そろそろ俺のキャパは限界になりつつある。


「せ、せかいのまじょ??」


「私を知ってるのかい、赤目」


赤い髪の彼女が解をひろった。

どうやら、彼女は世界の魔女?といわれるらしい。

有名人なんだろうか。


「あの、どうも無知なものでよく存じませんでした」


とりあえず権力者であろう彼女に俺は謝る。

よくよく思えば、知らずとはいえ彼女の別荘に勝手に居座り血まみれの怪我人を連れてきて一泊の宿を借りた癖に、礼の一つもしていない。

まったくもって俺は意識の循環が遅い人間である。

俺という存在がおぞましい程だ。


「あと、貴女の別荘に勝手に居座り、大変申し訳ありませんでした」


俺が頭をさげると、隣りのアンジェも慌てて頭をさげていた。

その瞬間、魔女と呼ばれた彼女は声高く笑いだした。

驚いて顔をあげると、彼女は座っている俺たちを指を差して、身体を折り曲げるように爆笑していた。


「き、君は、なんて面白いんだ。その自虐の塊のようなオーラしかり、不可思議な本や連れ合いの赤目、田舎芝居でもここまでのものはないぞ!」


女性の笑いどころは、俺にはわからない。


横にいるアンジェは何やら顔が白い。

いや、そういえば彼は大怪我だったはずだ。

彼があまりに普通だから忘れてしまっていたけれど、あの怪我が一日で治るわけないのだ。

あの謎な塗り薬のおかげか血は止まっていたが、そりゃあ具合は悪いだろう。

あー自身の無関心無神経さに吐きそうだ。


「あの、大丈夫ですか?怪我もまだ治ってないでしょう」


笑う彼女に聞こえないよう、小声でアンジェに訪ねる。


「ああ、いや、怪我は塞がりました。あれだけの薬であれば、大抵の怪我は一日休めば治ります。貴方が薬を調合してくださったんですよね、ありがとうございます」


なんと……すごいな。そんなもんなの?すごいな。

いや、でもアンジェさんものすごく顔色悪いけど。


俺のもの言いたげな遠慮ない視線に、彼は苦笑した。


「貴方は、そうか、異世界の方なのですよね、それならば彼の魔女について知る由もありませんね」


どうやら顔色の原因はそこにいるの有名人ようだ。

噂の君は笑いのツボに入ったままなのか、まだ肩を震わせている。


「あの方は世界の魔女と呼ばれています、この世界での知識と魔力を集約したかのような存在であると僕は聞かされました。そして、長い時を生きているとも。その深く広い知識の泉を寄り部とする者も多くいると聞きますが、無事に帰るものは一握りしかいないそうです。なにせ彼の魔女は「人間が嫌いなんだ」」


いつの間にか肩を震わせるのをやめた彼女が言葉をつなぐ。


「つまり、私の側で散らばるゴミが目障りだから、ゴミはゴミ箱に捨てるということを私はしているんだよ」


彼女は楽しそう微笑むが、つまりはゴミと呼ぶような人間が鬱陶しくてゴミ箱に捨てている。えっと、再起不能か、ファンタジー的なことを思えば、ころしているように聞こえるのだが。


「その怯えたオーラ、その通りだと思うよ、人間は目障りだからね」


つまり、目の前の彼女は人殺しということなのだろう。

詳しいことはわからんが、彼女は女性だがとても強く、そして人々に恐れられているのだ。


「お、俺も殺すんですか」


つい口をついた、俺の震えた言葉に、アンジェは俺をかばうように前にでた。

何してんだあんた、危ないだろうが。大人しくしないと。


「赤目はやる気かな。まあそんな反応をしなくていいと思うけど。私は異邦人なる君をとても気にいった。人間だが、この世界のゴミとは違うみたいだし、赤目も、まあ悪くない。私は知識に飢えていてね、君たちへの興味は君たちを客としてもてなすに十分足りえるんだよ。わかってもらえたら、その殺気をおさめてほしいなぁ、赤目」


魔女の瞳がぎらりと輝くよう宝石にみえた。アンジェは俺をかばう姿勢から動かない。

俺は事態に置いてきぼりである。つまるところ魔女さんは俺たちを客としてもてなしてくれるらしい。

殺さないということなんだろう。ならば、とにかく睨み合うのはやめた方が得策ではないんだろうか。


「あ、あの」


わけのわからないままの険悪な雰囲気は、俺の神経をひどくけずる。

現実で感じるような居心地の悪さを思い返させて、俺を圧迫する。

夢のくせに、酷い夢だ。


「なんだい?」


魔女はアンジェの後ろにいる俺に笑いかける。

琥珀の瞳は、笑うと黄昏の橙に似ていた。

そして俺は


「あ、赤目というのは……彼にはアンジェという名前があるので」


その言葉に、アンジェは驚いたように振り返り、彼女はまた声高く笑い声をあげた。




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