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Elvish  作者: ざっか
外伝二
54/117

思ったことを素直に言えば良いというわけでは無い


 なんでも服を買ったらしい。

 そりゃあもちろん見せてほしい。エリスがそう提案すると、しぶしぶ、そしてなぜか恥ずかしそうにルネッタは頷いた。

 

 お披露目場所はエリスの部屋。廊下でルナリアと一緒に着替えを待つこと大体五分。


「ど、ど、どう、ぞっ……!」


 切羽詰ったような声だが、特に気にせずエリスは扉を開けた。

 そして見た。


「か……かわ、いい、じゃないですか……」

「そーだろー」


 上下共に純白で、見事な細工の青い刺繍が入っている。

 むき出しの両肩がやけに輝いて見え、華奢な太ももを短いスカートが引き立てる。

 

 羞恥にだろうか、頬を赤く染めたルネッタはスカートの裾を右手で抑えて、左手は軽く自分のおなかを抱いていた。会った時から少し伸びた前髪の間から、潤んだような瞳がちらちらとこちらを伺っている。

 エリスは思わずため息をついた。


「天使ですね……」

「そーだなー」


 ルナリアの相槌も、正直なところ内容は良く分からない。

 このまま飛びついて抱きしめたい。

 しかし触れずにそっとしておきたい。

 戦う二つの欲の間で、ぽつりぽつりと言葉を漏らす。


「あの肩がたまりませんね……」

「そーだねー」


 頬が緩む。引き締めようとも思わない。


「手を繋いだまま湖畔を一周して、その後なでなですりすりぺろぺろしたいですね……」

「そう……ん?」


 なぜか、ルネッタの顔が余計に赤くなったような、気がする。

 ずり落ちそうな上を気にしては、もじもじちらちらこちらを見る。どうしてくれよう、このこ。


「ちょっと油断すると落ちてしまいそうな胸元が、いえむしろ強引に引き剥がしたくなってきますね……」

「…………」


 ルネッタは両手で胸を庇い、唇を震わせながら一歩下がった。

 その顔。仕草。全てが愛らしく愛おしく何もかもを掻きたてられる。

 零れそうになった涎を必死に飲み込んで、


「あの細い足首に鎖を巻いて、天蓋付きのベッドへと強引に押し倒して……痛いっ!?」


 視界が盛大に揺れた。

 どうやら頭を勢い良く引っぱたかれたらしい。

 なぜ分かるかと言えば、もう何度も喰らった感触だからに他ならない。


「なにをいってるんだおまえは」


 呆れと軽蔑と若干の照れを混ぜ合わせたような、不思議な表情でルナリアは言う。


「もぅ、冗談に決まってるじゃないですか。何もそんな引っぱたかなくても……て、あれ? ルネッタ、どうしてそんな怯えた顔を……? だから、冗談だって言ってるじゃありませんか……ああでも、そんな顔をしてるルネッタもたまらなくそそりますね……痛いっ!?」


 今度は拳だった。

 ひりひりと痛む。いやもうこれは完全にやりすぎではないか。

 抗議のために顔をあげたが、既にそこにルナリアは居ない。彼女はいつの間にかルネッタの隣に立って、守るように横から抱きしめていた。

 二人の視線が、エリスの顔にまっすぐ注がれる。


「……あの、抱き合った姿勢のまま抗議の目で見るの、辞めてもらえます?」

「自業自得だ、ばか」


 ルナリアがそっとルネッタの頬を撫でて、己のほうへと顔をむかせた。


「こんな変態にお前を任せるわけにもいかないし、今日は一緒に寝ようか」

「はい」


 甘い言葉に、笑顔で答える。

 ――いやいやいや


「ちょ、え、だって、しばらく私のほうでって」

「だから、しばらく経っただろ?」

「いやそれはそうですけどだってでも」


 こちらの言葉なんてまるで聞かずに、二人はいそいそと支度を済ませると、部屋からあっさり出て行ってしまった。

 ぽかんと見送ること数秒、再び扉が半分だけ開かれて、ルナリアがこちらを覗き込む。

 そして、言う。


「三日は私のほうで寝るから」

「えええええ……」

「今まで連続だったろー」


 それはそうだけども。

 ばたんと扉が閉じられて、静寂が取り残されたエリスを包んだ。

 ――えええええええ……

 もちろん分かっている。一日交代のところを、ずいぶん贅沢させてもらったことは。

 だけども。

 昨日まで居たのに、居ない。ずっと居たのに、居ない。これが――中々に堪えるのだ。


「ううううう……」


 ベッドに倒れこむと、ルネッタの残り香が鼻腔をくすぐった。

 ――はぁ

 一人でさえ、あれだけ狭く思えたベッドが、今はやけに広く感じた。





 




 それから数分後のこと。

 きぃ、と静かに扉が開いた。

 半身だけ中に入ったルネッタが、済まなそうに、


「あの……さっきは、えっと……ごめんなさい」


 ベッドへ倒れこんだままのエリスへと、そんなことを言ったのだ。

 あの程度のからかいでさえ、わざわざ謝りに来てしまう。

 ルネッタのそういうところが、たまらなくほんとうにこころからかわいいと、エリスは改めて思うのだった。

 結局、戻っては来てくれなかったけれど。

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